2.それはお断りかな
「待ちなさい!」
失態だ。ようやく見つけたというのに、住宅街に逃げ込まれるとは。
いつもならこんなミスはしない。遅い時間だったのが不幸中の幸いだった。
何が、「これは貴女にしか頼めない仕事なの。」だ。そうやって今までに何人も唆してきたんだろう、どうせ。どう言われようと私たちは任務を拒めない。そういう運命にあるとわかっていながら。
まず絶対に避けなければならないのは、一般人に危害が及んでしまう事だ。その後の処理も含めれば、面倒なことが多すぎる。解任するところを見られてしまう事も絶対に避けたい。光を見せるだけで偽の記憶と入れ替えられるような、便利な装置が与えられていれば話は別だが。
それに、さっきから逃げる一方で応戦してこないのが気がかりだ。何か考えがあるのか。
どこかを目指しているような、彼女の動きからはそんな意志が感じられる。
現地の情報はある程度事前に受け取ってはいたが、少し前にこちらに着いたばかりの私に対し、地の利では向こうの方が上のようだ。
対峙した時、「地の利を得たぞ。」なんて言われるのだろうか。だめだ。余計なことを考えるな。
とにかく今は追うことで精一杯だ。夜明けまでそう長くはない。このタイミングを逃せば、次はいつになるかわからない。今のところ逃げているだけで問題を起こすつもりはないようだが、いつ考えが変わってもおかしくはないのだ。このあたりで決着をつけなければ。
もう随分と追っている気がするが。
この坂を登りきった先にあるのは...。
なるほど。学校か。おとなしく捕まってくれはしないだろうが、この際何処までも付き合ってやろう。
「ようやく追いついたわ。」
「まさかここまで追ってこられるとはねー。」
「まだ学校は開いてないわ。」
「お願い、私と一緒に来て。」
「一緒に来てって...」
「殺されちゃうんでしょ?」
そうだ。だがそれでも、そう言はえない。
「そうね。ごめんなさい。」
何を謝っているんだか。どうあろうと私が最後にやらなければならないならない事は決まっているというのに。
「お願い、おとなしく従って。」
何が、お願い、だ。こんなことを言いながら、本当は誰も従ったりしないことも分かっているというのに。
「君に恨みはないけど、それはお断りかな!」
言い終えるか終えないかのところで、
彼女の手から何かが放たれる。
「...ッ!」
閃光弾とは用意周到だな。どこから持ってきたんだか。
幾らでも隙はあった。何をやっているんだ私は。
目標を目の前にして手も下さずに。
どこかで期待していたのかもしれない。
もしかしたら彼女が助かる方法があるんじゃないかと。今更になってそんなものが見つかったとして、どうするというのだ。これまでに私の手で解任してきた者達はどうなる。
私は、これ以上どうしたいというのだ。
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