雨宿りをしようと思った事が全て悪かったのか【KAC2023参加作品】
卯月白華
重なったからアンラッキーなのか、それともアンラッキーだから重なるのか
後ろからの刺すような視線をまるっと無視。
兎に角後ろを振り返らず、嫌な予感がした時から準備していた、二人分の代金をテーブルに置いて店を出る。
……怖い。
本屋兼カフェに居た人達が無事なのか、今は考えられない自分が大っ嫌いだ。
――――私には、それだけの力なんて無い。
今の私に出来るのは、自分を贄にして手を掴んでいる相手を、どうにか生かせるかどうかだ。
命を選別したことに心が引き裂かれるが、嘆く資格も無いんだから。
目的の場所まで間に合いさえすれば良い。
……雨は土砂降りで周囲が見え難い上、薄暗くなっている事にも嫌な予感しかしないけど。
いつの間にか夕暮れ時なのかも。
大禍時とか、本当に勘弁して。
深夜も大概だけど、黄昏時も危険なんだよ。
こういうの、アンラッキー7とでも言うのかね。
悪いことが重なったら、良いことも大勢引き連れて来て下さい。
「大丈夫か? 風邪引くだろ。体あんまり強くないんだから」
私がすぐ体調を崩すのは、身体が弱いのとは違うんだけどね。
周りから見れば、食べ物とかにも気を使っているように見えるのは知ってる。
今だ私に手首を掴まれたままだというのに、抗議一つしないで、こっちの心配しているらしい
相変わらず、良い人だと思う。
裏表もなく明るいムードメーカーだから、人気も高いけど、驕らないし。
何だかんだ初等部一年からの同級生でもある。
なんとしても死なせたくはない。
足元に、何度か黒く澱んだ何かが絡みついてきていた。
……時間が無い。
否、まだ穢れていないからマシと思っておこう。
思わないと私の身体が持たない。
頭を冷静に保ちたいのに、上手くいかないし。
たぶん、私だけならこれだけ心が騒いだりしないんだろうけど。
「何笑ってんだよ。まあ、楽しそうなら良いけど。それより、どうした? なんか凄い焦ってるよな?」
雨の音で、すぐ隣に居るはずの射矢さんの声も聞き取り難いって、本当にやばい。
だがこの手の捕食者は、走って全力で逃げた場合の方がマズかったはず。
経験上、早足での逃走くらいなら一番こっちを舐めてくれるから、まだ余裕がある。
あるはずだ。
「びしゃびしゃになる。どっか店入ろう。詫びもしたいし」
射矢さんの案じる声も、ありがたいけど聞く事は出来ない。
私が手首をつかんで引っ張っているはずが、身長差があるから、余裕で横に並んで困惑した瞳で覗き込まれる。
あれか、足の長さの差?
雨に濡れているからか、普段とは違って真面目な顔だからかは分からないけど、イケメン度が増してる。
特に何も感じない私って、思春期のトキメキやら甘酸っぱい想いやらとは無縁らしい。
射矢さん、本当に容姿が整っているんだけどねえ。
普段は軽すぎるからね、言動と表情が。
射矢さんが真面目な様子をしているだけで黄色い声援が響くってどんだけだ。
「ごめん。雨の中だけど、一緒に来て」
告げてから忙しなく辺りを見渡す。
……段々嫌なモノが増えている気がする。
ここで離れたらいわゆる各個撃破だ。
おまけに射矢さん、こういう場合の対処が出来るとは思えない。
普通の人はただ狩られて終わりなのは知ってる。
加えて間違いなく、入った店に惨劇を招き込むだろうし。
死体が残るか、ゆっくり生命力だけ喰われ続けて気がついたら突然死か、自殺か、病死に事故で終わり。
選り取り見取りだけど、死ぬのは確実。
……射矢さんだけでも守らないと。
こういう時、都会って困るんだよ。
人が多いと良いモノばかりじゃなくて、悪いモノの方がより集まりやすいし。
だからなのか、烏が集まっている所ばかり目につく。
記憶が正しければ、烏が集まる場所は気枯地の可能性が高かったはず。
人以外の嫌な視線が集まってきているのも感じるから、焦りが加速してる。
やっぱりアンラッキーなのか、今日の私。
母方の実家近くなら、こんなに気が急いたりしないのに。
「これ持って。絶対離したらダメだから」
大事なお守りの予備を、射矢さんに押し付ける。
彼を見る余裕も今は無い。
「え? なんで?」
目を丸くしている射矢さんに、いつもの言葉を告げる。
「破ったら、もう口きかないか――――」
「分かったよ」
食い気味に肯く射矢さんに、思わずため息が。
彼が、なんでこれだけで私の頼みをいつも全面的に聞くのか、本当に謎。
理由も言ってないのに。
……ああ、もう。
出掛ける前に、行先から家までの間にある
雨宿りをしようと思った事が全て悪かったのか【KAC2023参加作品】 卯月白華 @syoubu
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