48.「物騒すぎる恋愛模様」

 あれは、そう。

 わたしがまださくらの自我を思い出していない頃。


 チェルシーは、情緒不安定激ヤバ地雷女だった。


 今ならわかる。

 チェルシーわたしは不安だったんだ。……だけど、愛され方も、愛し方も分からなかった。生前は、ゴードン以外に自分を愛する人なんていなかったから。

 ゴードンを試したり、暴力や脅しに訴えて無理やり繋ぎ止める方法しか分からずに、何かあれば耳を引きちぎったり目をえぐったり……もちろん、すぐにくっつける場合が多かったんだけどね。「怪異」たちはもう死んでいるから、外傷に関する諸々の理屈も生体とは異なるわけで……。


 でも、あの日はゴードンの片目の接続が甘く、エドマンドかアルバートか忘れたけれど、誰かに絡まれて首が取れた拍子にコロコロと転がってしまった。

 それを見て、チェルシーは思った。


 彼の心は、いつか離れてしまうかもしれない。

 ……それなら。

 一部だけでも、自分の手元に置いておけたら──


 うん、ヤバすぎ。


 いやぁでも、気持ちはちょっとだけ分かるんだよね。

 推しの一部、持ってたいよね。肌身離さず持ち歩くのも、誰にも見つからない部屋の奥でずーっと大事に保管しておくのも、やりたくなるのはすごくわかる。わかるけどもね……!? 実行に移すのは相当ヤバいよ!?


 ……まあ、でも、それだけってことなんだろうね。

 考えたことと、実行に移すまでの距離があまりにも短すぎるって言うか……。


 なんて考え込んでいると、いつの間にやらゴードンが目の前にいた。

 

「お嬢、どうしたんスか」

「へあっ!?」


 思わず変な声が出てしまう。

 支えられてたエドマンドは……!? と思って周りを見回すと、起き上がって虚ろな目をしていた。レイラが声をかけているみたいだけど、反応もかなり鈍い。……ちょっと、過去を突きつけるのが早かったのかもしれないね。大丈夫かな……。


「やっぱり、様子がおかしいッス」

 

 ……って、ゴードンは心配そうに顔を近づけるのやめて!? 死んじゃう!! 情緒が死んじゃう!!!!

 

「いや、その、えっと……ちょっと考え事を……」

「……。そうッスか」


 ねぇ何その沈黙!! なんか含みがあるなら言ってよ心臓に悪い!!!

 止まった心臓また動いちゃったらどうするの!? ……いやそれは別にいいのかもしれないけど!!


「やっぱ最近のお嬢、かわ……変わったッスよね」

「そ、そそそそう!? まあ、そうですわよねぇ!?」


 なんか別のことを言いかけてたような気もするけど、何で目を逸らすの!? 何を考えてるのゴードン!?


「どうしよう。僕は今、すごくイライラして仕方がない」

「だからってアタシに話しかけないでくれる?」

「……君は正直、細すぎて好みじゃないのだけれど……今なら君だってにしてしまえる気がするよ」

「は? 今貧乳って言った? 貧乳って言ったよね? マジで有り得ない。やっぱサイテーだよアンタ。生かしておけないね」


  背後でアルバートとリナも物騒な会話始めちゃったんだけど!?

 何この状況……!

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