39. ある貴婦人の悲劇
子がいなかったチャールズの後を引き継ぎ、イーモンが領主となった際。
領内のほとんどの者が、優秀な騎士であるイーモンの
……が、そんな無邪気な予想に反し、領地は荒れた。
正式に「婚約者」となったレイラの元に入り
まだ喪に服しているレイラの元に足しげく通うイーモンを見て、多くの者が眉をひそめた。
イーモンの友人である騎士、エドマンドもその一人だった。
「イーモン。お前は既に領主となった身だ。少しは、振る舞いを考えるべきだろう」
エドマンドの忠告に、
友人の多いイーモンだったが、特に仲が良かったのが
エドマンドは端正な顔立ちだが
それでも、彼らは二人ともが
「相変わらず、エドマンドは堅いな」
やれやれと肩を
その瞳は、どこか、熱に浮かされているようでもあった。
「君は、燃えるような恋を知らないんだ」
「それがどうした。責務を放棄する理由にはならない」
「……君には分からないさ。誰もが寝静まった夜の
「言っている意味が分からん。私は友として、お前を
「エドマンド、君は友である以前に、部下だ。……口の利き方には気を付けろよ。
「……!」
善き友だったはずのエドマンドでさえ言葉を失うほど、イーモンはかつての人徳を失いつつあった。
……そして、悲劇は起こってしまう。
発端は、レイラの一言だった。
嬉々として自らの元に通うイーモンを見て、レイラの胸に浮かんだ疑念。
それが悲劇の幕開けになると知らぬまま、レイラは、純粋な疑問を
「悲しくはないのですか」
当然の疑問だった。チャールズの死からは、まだ日が浅い。チャールズは領主でありレイラの夫であったが、何より、イーモンの兄なのだ。
……が、イーモンの反応は、レイラの想像を遥かに超えたものだった。
「きみは、嬉しくないのか。おれと、名実ともに婚約者となれたのが……後ろめたく感じる必要のない……正式な
青ざめ、自らを
「そ……それとこれとは、話が違います」
「何が違うんだ? 兄さんが死んだおかげで、ぼく達はなんの気兼ねもなく愛し合えるようになった。本来は道ならぬ恋だという気まずさも、お
「……お零れ? あなたは、そんなふうに感じていたのですか……?」
ただ、誰にも見えていなかっただけ──
「まさか、あなたが……」
そして、レイラは、最後の一歩を踏み出してしまった。
「あなたが、あの方を殺めたのですか?」
燃え盛るような愛は、時に、身を焦がすほどの憎悪へと変わる。
イーモンが我に返った時。
足元には、血まみれのレイラが倒れ伏していた。
元騎士の力で散々に殴られた顔は、もはや、元の形を留めていなかった。
イーモンは真っ白に塗り潰された思考のまま、レイラを運び、井戸に投げ捨てた。
「誤って落ちた」事故に見せかけ、真実ごと葬るために……
かつて、チャールズを「そうした」ように。
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