26.「待って、好き………………」

「お嬢、どうしたんスか、お嬢!」


 ゴードンに呼びかけられて、思考が現実へと返ってくる。


「……やっぱり、おかしいッスよ。何かあったとしか……」


 少年の時より、ずいぶんと暗くなった瞳が私を覗き込む。

 ……きっと、私の瞳も、そうだ。

 暗く、くらく……変わってしまったのだろう。


「……ゴードン」


 話そう。

 受け入れてくれるかは分からない。

 もしかしたら、この関係が余計にこじれてしまうかもしれない。


 それでも。

 わたしは、彼の人生を変えてしまった。

 彼は、わたしのそばにいてくれた。


 ……彼にだけは、自分から打ち明けたい。


「わたし、実は──」




 ***



 

 わたしの説明を、ゴードンは黙って聞いてくれた。

「前世」のこと。記憶を取り戻したこと。この世界のこと──


「えーと、つまり……」


 ゴードンは困惑しつつも、一生懸命頭をひねって考えてくれる。


「この世界がどうとか、神がどうとか、そこら辺はなんか……呑み込めなくてアレなんスけど」


 まあ、そうだよね。考えた結果極端な方向に突っ走っちゃうあたり、生前からあんまり頭は良くないよね。


「お嬢は……失くしたもんを、取り戻せたってことで良いんスか」

「……! そう、かも……」


 確かに。

 ゴードンの知るチェルシーは、あらゆるものが「欠けた」状態だった。

 そう思えば、「取り戻した」って表現も間違いではないのかな。……たぶん。


「事情はたぶん、分かりやした」


 ゴードンは自信なさそうに頷く。何割くらい理解できてるのか怪しいけれど、わたしが以前のチェルシーとは違う……いや、のは、伝わったってことでいいのかな。


「ご、ゴードン!」


 ……それなら。

 今度こそ、言わなきゃいけないことがある。


「今まで、ごめんね……酷いことばっかりしちゃった」


 ゴードンの顔を見上げ、真っ直ぐ青い瞳を見つめる。

 頬を伝うのが、涙なのか、あのよくわかんない謎の液体なのか、分からない。


「ぐ……わ……っ」


 ゴードンはまた何とも言えない声を上げ、首が若干ぐらりと揺れる。それ、大丈夫? 前みたいにポロッと落ちたりしない?

 逃げられないよう、今度は服をぎゅっと握り締める。ゴードンは視線を左右にさまよわせ、やがて、ボソボソと呟き出した。


「あの、すんません……」


 視線を合わせないまま、ゴードンはたどたどしく語る。


「あんまり可愛いことされると……えっと……頭ドカンってなりそうっつーか……」


 …………。ああ、もう!

 こっちの頭がドカンするよ! バカ!

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