19.「真面目に困る」
「3……2……1……0……」
レイラが数え終わった途端、エドマンドがカッと目を見開いた。両眼から血の涙が流れ出し、ボタボタと床に垂れる。
「我が魂は復讐に生き、復讐に散るべし……!」
「──────」
「……失礼……。『ダメな波が来ちゃったかも』……と、申しておられる……」
あ、翻訳はしてくれるんだ……。やっぱり、根は真面目なんだね……。
「ヒヒッ、真面目なヤツだからねぇ。正気に戻ろうとはしているけれど、正気になればなるほどキツいって感じじゃないかい?」
ニコラスの声がどこからともなく届き、解説してくれる。どうやら、今は透明になって近くにいるみたいだ。
うーん……
何だっけ。仲間の裏切りで主君を殺され、
アレかな。ゲーム内で明かされたダイジェストじゃ分かりにくいけど、正気に戻って思い返したら無理になっちゃう「何か」があったりしたのかな。
「困りましたわね……」
正直、背景がシリアスだからこそ、余計に対応が難しい。アルバートみたいな変態やニコラスみたいな性悪の方が、ネタにもなりやすいぶん、まだどうにかなりそうな感じもする。
それで言うと、レイラにも同じことが言えるよね。優しくて繊細な貴婦人が、愛する人に裏切られて呪いを振りまく「怪異」と化したわけだから……。
うっかりゴードンへの想いにかまけそうになっていたけれど、わたしにとってもっとも重要なのはこの館の改革。この二人組への対応も、どうにか考えなきゃいけない。
いつまでも復讐の鬼だったり、呪いの貴婦人でいてもらっては困る。
「ケケケケケケケケケケケケケケ」
……と、背後から聞き覚えのある笑い声が響く。
リナだね。またブリッジ走りしてるのかな?
「聞いて!!!!!!!」
スルーしようと思ったけれど、呼びかけてくる声のテンションがやけに高い。何か良いことでもあったんだろうか。
「な、なんですの……?」
振り返ると、ブリッジでなく四つん這いで走ってきたリナとバッチリ目が合った。……というか、合ってしまった。
「気付いちゃった! こっちのが走る速度早い!!!」
瞳をキラキラと輝かせ、リナは心の底から楽しそうに語る。
……ああ、うん。
彼女はなんというか……平和だなー……。
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