17.「※後でニコラスに爆笑されました」

 まだ認めるのに少し抵抗はあるけれど、わたしはチェルシーだ。ちょっと今世の記憶があやふやになっているところはあるけれど、同一の魂であることに違いはない。


 ……そう。わたしは、チェルシー。

 ゴードンは狂ったチェルシーに耐えかね、「普通の女の子」として生きてくれることを望んだ。条件としては奇跡的なほどにバッチリ噛み合っている。


 ニコラスは前世のわたし高木さくらがいる世界に企画書を送っていた。

 つまり、わたしがこの世界に転生したのは必然。さくらも、チェルシーも、好きになるべくしてゴードンを好きになったんだ。


 つまり……

 これはもはや、運命だ。


 いつの間にやら、周りはいつもの館に戻っている。

 ぽかんとしているニコラスに背を向け、まっすぐ私室の方へと向かった。


「ゴードン、よろしくて!?」


 意気揚々とドアを開け放つ。

 うわ首の数すごっ! でも今はとりあえず無視!


「うげっ」


 ベッドの上であぐらをかいていたゴードンが、持っていたコミック本をサッと後ろ手に隠す。

 あー、うん、これはしっかりサボってたね。でも全然良いよ! 本当に手入れして欲しいんじゃなくて、構って欲しくてワガママ言ってるだけだし!


「ゴードン、お願いがありますの」


 甘えるように、彼の手に縋り付く。

 ゴードンはこれに弱い。よく知っている。


「お、お願い……? 今度は何スか」


 ここからチェルシーにできなくて、わたしができること。

 それは、ストレートな歪んでいない愛情表現だ。ゴードンはチェルシーに怯えてはいるけれど、いつまで経っても恋心を捨てられないくらいには一途な男……


 よし、いける。


「わたくし……」


 あれ、どうすればいいんだっけ? 

 わたくしと、正式にお付き合いしてくださる? ……とか?

 いやいや、さすがに唐突すぎるでしょ。今まで散々付き合ってるのか付き合ってないのかよく分からない距離感で接しておいて、今更それは不自然だ。

 じゃあ、わたくし、美味しいお菓子が食べたいの。持ってきてくださる? ……とか?

 いやいやいや、それいつものワガママじゃん。何も変わってない。


 ……んんん? どうすればいいんだっけ?


「……わ、わたくし……」

「……? ど、どうしたんスか、お嬢」


 ゴードンの瞳が、わたしを覗き込む。

 ぐわぁぁぁぁぁぁ顔がいい!! やめて近付かないで心臓に悪い! 心臓動いてないけど!!!


「……ッ、こ、これ以上わたしの心をかき乱さないでくださいまし!!」

「えっ!? な、なんか、サーセンっした……」


 前言撤回。

 素直になるのって、難しいね……。

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