14.「灰色の音楽家、またの名を……」

「灰色の音楽家」ニコラス・アンソニー。

 ゲーム内では攻略対象の一人であり、彼のルートは他のキャラクターと少々異なる「隠しルート」となっている。内容は、ニコラスのヒントを元に、他の怪異たちを倒していくストーリーだ。


 ……そして、そのルートでは「主人公の真実」が明かされる。その真実こそが、「ハッピーエンドが存在しない」理由でもあった。


 迷い込んだ彼女は「客人」などではなく、生者ですらもなく、「怪異」そのものだった、と──


「……気付いていたんだね」


「レディ・ナイトメア」らしさを取り繕うのをやめ、ニコラスへと向き直る。


「ジブンがまず提示する仮定として……」


 出た。「ジブン」。ニコラスの独特な一人称だ。


「キミが『客人』の遺物から得た情報によって、『この世界がゲームの中だと思い込み、高木さくらの人格を生み出した』という可能性は? 『ない』とハッキリ言い切れるかい?」


 ……なるほどね。ここに来て、前提から揺らがせてくると。

 チェルシーわたしが前世の記憶を「思い出した」のではなくて、前世の記憶を「創り出した」と言いたいわけだ。


「有り得ないね」


 きっぱりと言い切る。


「チェルシーは、。彼女の状態じゃ、ゲームだけじゃなく『創られたもの』そのものを楽しめるとは思えない」


 まっすぐ、グレーの瞳を見つめる。

 ニコラスは「ヒヒッ」と短く笑い、パチパチと拍手を送った。


「ご名答。ずいぶんと、客観的に見れるようになったものだねぇ」


 途端とたんに、辺りが真っ暗闇へと変わる。

 え、ちょ、何!? 何が起こったの!?


「ヒヒヒッ……よく思い出してくれたよ。これで、にも新たな『可能性』が生まれてくれた」

「ど、どういうこと……!?」


 待って、何これ!?

 ニコラスに空間転移もしくは幻覚を見せる能力があるなんて、知らないけど!?


「おっと、ちゃんと説明していなかったねぇ……ヒヒッ」


 ニコラスはたのしげに笑いながら、指揮棒でも振るかのように手を動かす。

 ……えっ、なんか、荘厳そうごんな感じの音楽が流れてきた……!?


「なぜジブンが『キミの前世』を知っているのか。そして……、主人公の真実を明かす役割をになえたのか、疑問には思わないかい?」

「……!!」


 確かに、そうだ。

 わたしのようにこの世界がゲームの世界だと理解した……のだとしても、わたしの前世の名前高木さくらまで知っているのはおかしい。

 それに、ゲームの中でさえニコラスが「真実を知った理由」は、最後まで明かされないままだ。


「ジブンは『灰色の音楽家』ニコラス・アンソニー」


 ニコラスは自分の胸に手を当て、うやうやしく礼をする。


「またの名を、この世界の『神』だよ。ヒヒッ」


 そ、それは……「神音楽家」って意味じゃ……いや、ないか。やっぱり。


 ……って、待って? ここに来て神様登場ですかー!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る