12.「変態はお帰りください」

 ニコラスとの打ち合わせが一段落し、一時解散となった。レイラは無言で椅子に腰を下ろし、リナは例の高速ブリッジ走りでどこかへと去っていく。エドマンドも壁際の定位置へと戻っていった。


「お疲れ。レディ」


 ……と、一息つく間もなくアルバートに声をかけられた。

 顔面は綺麗に「擬態ぎたい」しているけれど、首元や手首からは焼けただれた皮膚が覗いている。

 なるほど、今まではあまり気にしてなかったけど、「擬態」する部位を限定してリソースを節約しているわけね。器用だな……。


「あら、いったい何のご用ですの?」

「……ちょっと、君と話がしたくてね」


 ……やっぱり、疑われているのかな。

 こいつ、ゴードンと違って感情が読みにくいんだよね……。


「君のワガママにも困ったものだ。また、あの従者くんを困らせているんだろう?」


 ……いや、この感じだと、疑われてるわけじゃなさそう……? 心なしか、興奮してるようには見えるけど……。


「そのワガママを、僕に向けてくれたっていいのに……」


 あの、それハァハァしながら言わないでくれます?


 よく良く考えれば、これはイケメンに言い寄られているとか口説かれているという状況なんじゃないだろうか……とも思うけれど、相手は「血まみれ貴公子」ことアルバート・ジャック。

 正直、見えているを通り越してド派手な蛍光色で飾り付けられている地雷だ。

 生前、アルバートは多くの人を拉致らちしては殺害した。その多くが女性。……理由は、「ある部位を食すことにハマったから」。その部位がどこなのか、わたしの口からは言えない。あまりに、おぞましすぎる。


 まあ……生首を玩具おもちゃにする「レディ・ナイトメア」が言えたことじゃないんだけどね……。


「僕だって、君に目をえぐられたり耳を引きちぎられたり、首を落とされたりしてみたい! ……そう思うのは、おかしなことなのかな」

「おかしなことだと思いますわ!」


 ……しかも、アルバートはドM。殺人鬼だけど、ドM。人肉嗜食カニバリズムに加えて、被虐性欲マゾヒズム

 痛みに慣れすぎて自分の身体を痛め付けるだけじゃ物足りないから、他人の苦痛を必要としている……らしい。


 やっぱり、「ホーンテッド・ナイトメア」はホラーゲームだ。こんなド変態、乙女ゲームにはとても出せない。

 ゲーム上でもヒロインに甘い言葉を囁きながら彼女の××を(食欲的な意味で)狙い、次第にヒロインに本気で恋をして××や××をされることを望み、最終的にはヒロインを××して自らの精神的苦痛で気持ち良くなろうとする……内容がエグすぎて自主規制入れたら伏字だらけになっちゃった……。

 要するに、それぐらいヤバい男だ。


「ねぇねぇ、どうして僕じゃダメなんだい? 僕の部屋でじっくり聞かせておくれよ。何なら永久にいてくれても、僕としては全然構わないから……」

「しれっと拉致監禁を狙わないでくださいまし!」


 改めて思うけど、この館、濃いキャラしかいないね!?

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