5.「ブリッジ走りで這う女」

「しかし……どうしたもんかなぁ」


 例の「生首エンド」を除けば、悪役である「レディ・ナイトメア」はだいたい悲惨な末路を辿る。

 かと言って「生首エンド」が最適解かと言うと、正直そんなこともない。こんなホラーな館で生首を集め続けるだけの日常なんて、普通にイヤだ。


「レディ・ナイトメア」もとい、チェルシー・ブロッサムは、両親および使用人からの虐待によって心を壊し、自分に罵詈雑言ばりぞうごんを浴びせることも殴ったり蹴ったりすることもない「生首」を玩具おもちゃにすることに大きなよろこびを見出した。閉鎖的な環境で育てられ、他の遊びをほとんど知らなかったことも関係しているだろう。


 でも前世の記憶がある「わたし」は違う。面白いことなんて、他に山ほど知っている。カラオケとか、ゲームとか、アニメ鑑賞とか、推しの追っかけとか。

 こんなじめじめしたホラー空間でじめじめした日常を送り続けるなんて、まっぴらごめんだ。ホラーはゲームや映画の中で楽しむから良いのであって、現実に体験したい人なんてそうそういないだろう。相当のドMであれば、まあ、別……なのかなぁ……。


「ケケケケケケケケケケケケケケケケケ」


 ……なんて考えていると、背後から笑い声が響く。しかも、どんどん近づいてくる。

 たぶん、ブリッジ走りの彼女だ。わぁー、今日も元気だなぁー……。


「ケケ?」


 ……と、なぜか彼女……「這う女」は、わたしの前で走るのをやめた。首をコテンと傾けたせいで、緑色の短髪が床につきそうになっている。やめなよ、汚いから……。


「……どうされましたの?」


 一応、声をかけてみる。

 彼女は「這う女」ことリナ・レーガン。ゲーム上は攻略対象でも悪役でもない。……いや、序盤で突然走って来てプレイヤーの心臓を止めようとしてくるって意味では悪役かもしれない。

 言ってしまえば、「びっくり要員」だ。

 後は、特に大した出番はない。忘れた頃に現れてプレイヤーの心臓を口から出させようとするぐらいの役割しかない。そんなThe・モブキャラのくせに、pixerbでは妙な人気があったりもする。


「あのさ、アタシ、ずっと思ってんだけど」


 し、シャァベッタァァァァァァァ!!!

 えっ、こいつ、こんなになめらかに話すの!? 嘘でしょ!?


「みんな、なんでアタシのことスルーするワケ?」


 えっ……そんなこと言われても……


「……触れにくいからでは……?」

「えー、マジかぁ」


 マジかぁ、じゃないんですが。あんたのせいでどれだけの初見プレイヤーがゲーム機やコントローラーを投げたと……


「ウケ狙いなんだけどなぁ、これー」


 …………はい?

 今、何と???

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