4.「転生したら生首大好き令嬢でした」

「お、お嬢……?」


 ゴードンが強ばった表情で私の顔色を伺う。

 何でそんなにビビるかな? まあ、日頃の行いだよね。知ってる。

 いつものレディ・ナイトメアわたしならゴードンがやらかしてもやらかさなくても、気に食わないことがあったら「裏切りは二度と許しませんことよ」とか何とか言いつつ目をえぐったり耳をちぎったり……これ、冷静に考えなくても、わたしが悪いね……。


「どうしたどうした? 何だかいつもと雰囲気が違うねぇ……ヒヒヒッ」


 半透明のおじさんがニヤつきながら話しかけてくる。こいつは「灰色の音楽家」と呼ばれている怪異だ。一応、例のゲームでは攻略対象の一人でもある。

 名前はニコラス・アンソニー。髭を生やした白髪しらがのおじさんで、丸い眼鏡をかけている。ホラーゲームの住人らしく、まとった雰囲気はどこか陰鬱だ。


「……何でもありませんわ。少し、お花を摘んでまいります」

「ヒヒッ……良いねぇ。鼻でも耳でも、好きなだけもいで来るといい」


 笑いながら見送られたけど……違う、そうじゃない。

 否定すると余計に変な目で見られそうなので、そのままそそくさと部屋の外に出た。ゴードンは目を白黒させていたけど、構ってる暇なんかない。無視だ無視!


 


 部屋の外に出て、大きくため息をつく。

 前世のわたしはごく普通の家庭に生まれてごく普通の学校に行き、ごく普通の会社に入って人並みに働いて人並みに疲労困憊ひろうこんぱいしていたところ、よくある感じの交通事故でこの世を去った何の変哲もないそこら辺の一般人だ。名前もド平凡な「高木 さくら」。少なくとも、「レディ・ナイトメア」みたいな激ヤバ女からは程遠い存在のはず。


 つまり……あのヤバい空間でわたしの中身が変わったと知られたら、非常にマズい。特に、恐怖で従えられていたゴードンなんか、今までの仕返しとばかりに危害を加えて来るかもしれない。……知られるわけにはいかない。絶対に。


 ともかく、状況を整理しよう。

 今世のわたしの名前は「レディ・ナイトメア」ことチェルシー・ブロッサム。生前は「首盗りゴードン(本名はゴードン・ヒルズ)」を従えて人間の生首をコレクションしまくり、死後も呪われた館にて迷い込んだ客人の首を狙う生首大好き令嬢だ。……えっ、もしかしなくてもわたし……ヤバすぎ……?


 そしてここは、乙女ゲーム風ホラーゲーム「ホーンテッド・ナイトメア」の世界。

 攻略対象は女の子も含めて五人。ちなみに、「レディ・ナイトメア」は攻略対象ではなく、主人公の首を執拗しつように狙うだけの悪役ということになっている。捕まると、部屋に飾られた主人公の生首が映るだけのデッドエンド……通称「生首エンド」に直行することで有名だ。

 まあ、攻略とか何とか言ったって、誰を選ぼうがハッピーエンドになんかならないんだけどね。ハハッ。

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