至近の光

第6話 私の意思 本当の愛

運命の卒業式の朝。リビングへ行くと母が上機嫌に鼻歌を歌いながら朝ごはんを作っていた。

　「おはよう天乃。ついに卒業ね。」

　「おはよう。そうだね。」

身支度を終え、学校へ向かった。クラスのみんなと話さず別れる寂しさもありつつ、今日ですべてが決まると思うと悲しさより緊張が勝っていた。

卒業式も問題なく終え、クラスのみんなと話すことなく私の高校生活が終了した。帰ろうと玄関に向かう途中、輝とすれ違った。すれ違う時、輝は小声で

　「すぐに向かう。家で待ってて。」

といった。私も父に怪しまれないように振り向かず、小さく頷いた。家に帰ると、豪勢な料理が食卓に並んでおり満面の笑みの母と日影さんが待っていた。

　「おかえり。お父さんももうすぐ帰ってくるし着替えてきなさい。」

　「わかった。」

部屋に戻り、着替えていると扉の向こうから日影さんの声が聞こえた。

　「卒業おめでとう天乃ちゃん。遂に今日が記念日だね。下で待ってるね。」

日影さんの声を聴いて体が震えた。

　「大丈夫、大丈夫。輝が何とかしてくれる。」

着替えてリビングへ向かうと父も帰ってきていて、日影さんと吞んでいた。みんなで食事をしているとインターホンが鳴った。

　「誰かしら？出てくるわね。」

玄関をのぞいてみると、輝がトートバックを持ってやってきていた。

　「あら輝君じゃない。久しぶりね。どうしたの？」

　「お久しぶりです。最後の挨拶と少しお話がありまして少しだけお邪魔してもいいですか？もちろん娘さんとは話しませんので。」

　「いいわよ。上がっていきなさい。」

　「お邪魔します。」

輝も同じ食卓に座り、すぐに話題を切り出した。

　「今日来たのは他でもありません。娘さんをもらいに来ました。」

　「！」

輝のいきなりの宣言に赤面してしまった。

　「何を言っている！天乃ちゃんは今日、俺と結婚するんだよ。」

　「そうよ。天乃は修さんっていう素晴らしいな方と結婚するのよ。」

　「先導・・お前何のつもりだ。冗談のつもりなら追い出すぞ。」

輝の宣言に日影さんは怒鳴りつけ、母は日影さんに便乗するようにいい、父は輝を睨みつけた。だが、輝は委縮したり怖がる様子もなく続けた。

　「まさか、冗談なんかじゃないですよ。それにおばさん、今素晴らしい方って言いましたよね。」

　「そうよ。修さんはね、大企業の幹部の方で天乃も修さんと結婚した方が幸せなはずよ。」

　「本気で言ってます？」

輝は少し母を睨んだ。母は少し体を後ろに引いた。

　「実は天乃がその日影さんって人と結婚するのは知ってたので今日まで調べさせてもらいました。何で知ってたかはご想像にお任せします。」

　「いやーその人は素晴らしい人ならほとんどの人は聖人か仏様ですね。」

　「なに？」

輝は持ってきていたトートバックから何枚かの写真付きの書類を食卓の上に並べた。その書類を見た日影さんは顔を真っ青にしていた。

　「調べて始めて一週間くらいでいろんな情報が出ましたよ。えーっと、会社の部下に対するパワハラやセクハラ、会社の金を横領。出るわ出るわ余罪の山。隠す気ないのかと思うほどに簡単にわかりました。さらには、天乃に構ってもらえなくて寂しかったんでしょうね。ご丁寧に覆面までかぶっての女子高生強姦未遂。これは警察に見つかって逃亡。ここまでのクズとは思いませんでした。さてと、これについてどうお思いですか？」

　「修さん。」

　「こんなのでっち上げだ！天乃ちゃんと付き合いたいからってこんなのでっち上げやがって。ふざけるな！」

日影さんは輝に顔を近づけて至近距離で怒鳴りつけた。

　「でっち上げてなんてありませんよ。ちゃんと正式な場所に頼んで出てきた情報ですしもみ消した情報だからってピリピリしても遅いですよ。あっ後、あなたにはこの書類も見せないとですね。」

輝は日影さんの前に1枚の書類を見せた。

　「まさか・・それは。」

　「はいそのまさかです。日影修さん。あなたに逮捕状が出されました。署までお願いします。」

輝がスマホで電話をかけると、家のインターホンが鳴った。母がでるとそこには警察官が何人か立っていた。

　「日影修さん。あなたに逮捕状が出たのは確認しましたね。署まで連行します。」

警察官は日影さんの手に手錠をかけた。日影さんは魂が抜けたかのようにおとなしくなり連行された。

　「そんな・・。」

母は状況が理解できないのかその場に座り込み、父は冷や汗をかいていた。

　「これでわかりましたか。あなた方が天乃にやってきたのは愛情なんかじゃないってことに。」

　「そんなはずはないわ。私たちはちゃんとこの子に愛を注いできた。この子が幸せになるために育ててきた。」

　「そうだ。俺たちの教育は間違っていない。長く人生を生きてきた俺たち両親のいうことを聞いた方が子供は絶望せずに安心して育つのだ。」

　「まだそんなこと言ってるのか。」

輝がこれほどまで怒っているのを初めて見た。両親の発言に堪忍袋の緒が切れたのか、口調がいつもと違った。

　「あんたたちがやってきたのは教育なんかじゃない。自分たちの価値観を押し付けて娘を苦しめただけだ。人が成長するためには出会いと別れを繰り返し、たくさんの人と関わることが重要だ。それをさせなかった行為をあんたたちは愛の名前を使って正当化してただけだ。虐待と何ら変らない。」

　「たった18年しか生きてないガキに何がわかるんだ。社会の理不尽さも知らないくせに。」

　「だったら俺より2回り近く、長生きしてるあんたらがなんでそれを理解できてないんだ！」

輝は父の胸ぐらをつかんで、怒鳴った。

　「じゃあ聞くがあんたらここ最近、天乃の笑顔を見たか？純粋に何かを楽しんでいる天乃を見たか？」

父は口が半開きで目を丸くした状態で動かなくなった。母も父と同じような顔をしていた。輝は父の胸ぐらをゆっくり離した。私は輝が私のことをここまで思ってくれ本気で救おうとしてくれたことに嬉しくなり無意識に涙を流した。

　「そういうことだ。・・・天乃。」

輝は先程までとは打って変わって優しい笑顔で左手を私に差し出した。

　「行こう。」

　「うん！」

輝の手を取って家を出ようとした。すると、母が泣きながら呼び止めた。

　「待って。お願い待って、今までのことは謝るわ。もう縛ったりしないから出ていかないで。」

　「お父さん、お母さん。私ずっと苦しかった。普通に友達も欲しかったし、学生らしいことしたかった。だから、これからは私の意思で生きてく。私の意思でここを出ていくわ。でも、ここまで育ててもらったことは感謝してる。ありがとう。」

そう言い残して、輝と一緒に出ていった。扉の向こうから母の泣いている声が聞こえた。でも、もうあそこに戻らないと決めた。私の意思で。

　「輝、どこに向かってるの？もう夕方だけど。」

　「いいからいいから。」

輝に連れられ、やってきたのは高校だった。

　「よかったまだいた。おーい。」

輝が手を振っている先をみると、そこにはクラスメイト全員が待っていた。

　「遅いぞ輝。で？成果は？」

輝が早川君にグーサインを示すと、クラスメイトが全員一斉に私のもとに駆け寄ってきた。

　「よかった姫ちゃん。家を出れたのね。」

　「ようやくお姫さんと話せるんだね。」

急なことで状況ができていなかったが、早川君が説明してくれた。

　「輝がみんなに頭を下げたんだよ。『最後に天乃と学校の思い出を作りたいからここで待っていてほしい。絶対に天乃を連れて帰る。』って。」

輝の方を見ると少し照れていた。

そこからは時間を許す限りクラスメイトとの会話を楽しんだ。すっかり辺りは暗くなり解散の流れになった。私は解散する前に早川君に頼んで輝との2ショットを撮ってもらうことにした。

　「撮るぞー。」

早川君がシャッターを切るタイミングで私は輝の頬にキスをした。輝はびっくりした様子で赤面していた。周りのクラスメイトは冷やかしたり発狂したりしていた。

　「ちょっ、天乃。」

ずっと暗闇に包まれていたような人生だった。そんな暗闇の中にさした1本の光のような彼がいたからこんな明るい世界を知ることができた。いろんなものが見えるようになった。私の人生に欠かせない存在。そんな彼にこの感情をこの気持ちを伝えべきだと思った。

　「これも私の意思だよ。ありがとう輝。大好きだよ。」

　「天乃にはかなわないな。俺も大好きだよ。これから2人でいろんなことをしていこうな。」

　「うん！」