第4話 自由までの準備

結婚を伝えられた日の夜。私は眠ることができず泣き続けていた。夜の11時くらいになると、輝の部屋の明かりがついた。


 「輝、帰ってきたのかな?」


輝と話すのが最後になるかもしれないと考えた私は小さい頃よくしていた手を伸ばし輝の部屋の窓をノックした。


 「どうしたの?ずいぶんと懐かしいことして。」


私はどこから話したらいいかわからず、言葉を発せないでいた。すると、輝は何かを察してくれたのかカバンからスマホとイヤホンを私に渡して、イヤホンを耳に入れるようにジェスチャーした。


 「聞こえる?」


イヤホンを耳に入れるとイヤホンから輝の声が聞こえた。


 「俺のパソコンと繋いで通話できるようにしたよ。これなら小声で話せておばさん達にも聞こえないでしょ。何があったかは知らないけど話したい事があったんだろ。ゆっくり時間をかけていいから話してみな、多少はすっきりするぞ。」


輝のやさしさが身に染みた。先ほどまでいろんな感情がこみ上げ、重く感じていた体も輝の声を聴いて落ち着いて軽くなった気がした。


 「あのね、聞いて。」


私は家に帰ってからのことを事細かに輝に伝えた。輝は私の話を頷きながら真摯に聞いてくれた。


 「輝、やっぱり2人で遠い場所に逃げない?結婚なんてしたくないよ。私は輝とがいい。」


その輝の姿にやっぱり離れるのが嫌と感じた私は思わず告白じみた言葉を言ってしまった。でも、なりふり構ってられなかった。一日でも早くこの家からあの両親から離れたかった。


 「天乃落ち着いて。天乃ならわかるはずだよ。自分で責任をとれない俺たち子供がそんなことをしても意味がないことに。」


輝の言葉に我に返った。


 「ごめん。気が動転してた。」


 「大丈夫。あんなことがあったんだ、しょうがないよ。流石にほおってはおけないけど、今すぐどうこうできる事でもない。だから、卒業まで待ってほしい。」


 「え?」


 「今どうにもできないから時間をかけて準備をする。だから、卒業まで1年ちょっと耐えてほしい。必ず迎えに行くから。」


輝の真剣な言葉に私は再び涙を流しながら頷いた。


 「うん、待ってる。」


 「ありがとう。でも、あの両親がいつ強硬手段に出るかわからない。だから、天乃にも協力してほしいことがある。」


 「うん。私にできることならするよ。何をしたらいい?」


 「まずはその男の人との結婚、籍を入れるのを卒業まで待ってほしい旨を親に伝える。このまま何もしなかったら最悪天乃の知らないところで籍を入れられる。それは避けたいからこれは必須だ。そして、その男の人と二人きりにならない。これも徹底してほしい。相手は未成年とわかって結婚する人だ。何をしてくるかわからない。だから、絶対に二人きりにならないこと。」


 「わかった。」


 「俺も天乃と話せないのはつらいけど、最悪の結果にならないためだ。互いに頑張ろうな。」


 「うん。頑張る。」


 「それじゃあ切るな。おやすみ。」


 「おやすみ。」


私は輝の声を聴いて安心して眠りについた。



翌朝・・・

私は両親と話すために少し早めに起きた。


 「あら、おはよう。今日は早いのね。」


 「まぁね。お父さんはいる?」


 「お父さんは今、身支度してるわよ。もうすぐで戻ってくるわ。」


 「今日は早いな。天乃。」


 「うん。ちょっと話したいことがあってね。」


私は朝食を食べ終え、昨日輝と話したことを切り出した。


 「まずは、昨日取り乱してごめんなさい。急なことでびっくりしちゃって。」


 「本当よ。急でびっくりしたんだから。」


 「ごめん。実はお願いがあって。」


 「お願い?」


 「うん。日影さんとの結婚、籍を入れるのを卒業まで待ってほしいの。私はまだ高校生だし、お相手は社会人でしょ。高校生と結婚は世間の目的に危ないと思うの。卒業したら私も高校生じゃなくなるし大丈夫になると思うの。もう輝ともはなさないからお願いします。」


私は深く頭を下げた。こうすることで私のお願いを通しやすくなると考えたからだ。

 

 「いいわよ。」


両親は少しの間、互いを見つめあった後にあっさりと許してくれた。


 「いいの?」


 「えぇ。そこまで修さんのことを考えてるならいいわよ。ねぇお父さん。」


 「あぁ、修には俺から言っておこう。」


とりあえず第1関門を突破し安心した私は、そっと胸をなでおろした。ここから私は、できる限り日影さんに会わず二人きりにならないように立ち回った。卒業後の進路を近場の今の学力では無茶だと思えるほどのレベルが高い大学に設定して、勉強に明け暮れた。こうすることで何とか二人きりになることを避けていた。


月日は流れ、高校3年生の春。大学受験の勉強も順調に進んでいき、合格のめどが立つまで学力が向上してきた。輝と話せない寂しさはずっとあったが、もうすぐこの生活と離れられることに喜びと感じていた。

ある日の夕方、この日も学校が終わるとすぐに帰宅し、自室で勉強をしていた。すると、いつもはするはずのない扉をノックする音が聞こえた。だが、今のこの家には私以外誰もいないはずだ。扉の向こうから聞こえたのは今一番聞きたくないあの人の声だった。


 「こんにちは、天乃ちゃん。」

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