第3話 不穏な笑み

学校が終わると私は1人で家へと帰る。輝がいたら話しながら帰ることができるが、輝は放課後いつもバイトに向かう。私の部屋と輝の部屋は手を伸ばせば届くほど近く、物音などはよく聞こえる。どこでバイトしているかわからないがいつも帰りが遅く、帰ってきてからのパソコンを使って何かをしているようだ。


輝のことを考えていて上の空になっていた私は門限の時間が近づいていることに気づいて、走って家に帰った。何とか間に合い玄関の扉を開けると母が仁王立ちで待っていた。


 「ずいぶんとギリギリね。何かあったの?」


 「別に何もないよ。少し考え事してただけ。」


 「今日もちゃんと誰とも話してないでしょうね。」


 「輝としか話してないよ、私も馬鹿じゃないし。疑うなら帰ったらお父さんに聞いてみなよ。」


 「輝君ね。お父さんが帰ってきたら話す事があるからそれまで勉強してなさい。」


 「?わかった。」


いつもより上機嫌な母の様子を不審に思ったが、言われた通りに部屋に戻り勉強を始めた。数時間後、父が帰ってくると母が私を呼びに部屋に入ってきた。


 「天乃、ご飯ができたわよ。ご飯の後に話があるから。」


やはり母はいつもより上機嫌だった。いつもは絶対しないノックのしていたし、声のトーンも若干高い気がした。リビングに行くとテーブルの上には少し豪華な料理と30代半ばくらいの見知らぬ男性が席に座っていた。私は軽い会釈だけして自分の席に座った。男性は何やら私をじろじろと見つめていて気持ちが悪かった。


食事を終え、いつものように食器を洗っていると母が


 「天乃、一旦席に座りなさい。」


席に座ると、母は男性の紹介を始めた。


 「この人は日影修ひかげおさむさん。お父さんの大学時代の後輩だった人よ。」


 「修さん、どうですかうちの娘は?」


日影さんは一度私を舐め回すように見つめてきて、ニヤッと笑った。


 「いやー本当にいい娘さんですね。とてもいい子そうですし。こんな子と結婚できるなんて僕は幸せ者ですね。」


日影さんの言葉を一瞬理解ができず、少しして背筋が凍った。


 「ちょっと待って。」


私は会話を遮るようにその場から立ち上がり、母に聞いた。


 「結婚って何?私この人と初対面なんだけど。それに、私まだ17歳だし結婚なんて早すぎるよ。」


 「何言ってるのよ。もう17歳でしょ法律的にも結婚できるじゃない。それに、修さんは大企業の幹部なのよ。どこの馬の骨ともわからない男に渡すくらいならってお父さんが説得してくれたのよ。修さんと結婚すれば将来安定よ。私たちも安心だしwin-winってやつね。」


母は悪びれるわけでもなく、逆に誇らしげな顔をしていた。父も何も言わず深く頷くだけだった。


 「あっそれと、明日から輝君とも話すこと禁止ね。」


 「は?」


その言葉に結婚のことと同じくらいの衝撃を受けた。いきなり私の楽しみを拠り所を生きる理由を奪われたからだ。


 「待ってよ。輝は関係ないじゃん。なんで禁止する必要があるの?輝と話すくらいいいじゃん。」


 「天乃。」


今までしゃべらなかった父が急に話し出した。


 「なんで修という結婚相手がいるのにあの男と話す必要がある。前々から思っていたがあの男はお前に如何わしい気持ちを抱いている。そんな奴と一緒にいたらお前も不幸になる。だから、修に頼んで結婚してもらうようにしたんだ。」


私は父が何を言っているのかわからなかった。いきなり知らない人と結婚させられそうになり、思いを寄せている人との接触を禁止され存在を否定された。これらのことがほんの数分のうちにおき、色々とこみあがってきた。


 「本気で言ってるの?輝のこと何も知らないくせに。」


私は直ぐに自室に戻って鍵を閉め、深く布団をかぶった。そこから私は泣き続けた。

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