奇伝。それいけ邪馬台国

三夏ふみ

レッゴー!

『ななの鳥、ななの鹿、ななの満ち欠け、ななの国より、ななの使者が、ななの方角にて、ななに乗って現れるでしょう』


高い場所、薄い布に覆われたやぐらの前からお付きの女性がお告げを読むと、下に控えた男達が恭しく頭を垂れ部屋を後にする。間をおいてお付きの者も頭を下げ、部屋から出ていく。


布の奥、ひとり残された影がペタン、と横に倒れる。


「ないわぁぁぁ」


誰も居なくなった部屋に小さく響く、くぐもった声。


「どう考えても、ないわぁ。あれ信じちゃう?あれを信じちゃうわけ?……ないわぁぁぁ」


影が転がる。


「仮によ、仮に。ばぁちゃんが培ってきた信頼関係?それがあったとしてよ、あれ信じる?本気で信じちゃう?」


深いため息が漏れる音。


「占った私が言うのもなんだけど、あれ、どういう意味なわけ?結局、何が言いたかったわけ?そうね、ちょっと譲って使者が来るのは何となく分かる、ななの方角も分からなくもない。でも、でもよ、ななの国ってどこよ?ななの鳥、ななの鹿ってなによ?そもそも、ななに乗ってやって来るってどういうことよ、ななって何なのよ?……やっぱないわぁぁぁ」


うつむけの状態になった影が、両手で頬杖をつき頭を上げる。


「まぁ、逆に考えると、やっぱ、ばぁちゃんすごいわ。よくあの年まであれで乗り切って来たよ。結構長いことやってたもんね。例え湖に出掛けたら日照り続きで枯れてて、イライラして帰ろうとしたら石につまずいてコケて、膝擦りむいて、立ち上がろうとしたら泥濘に顔突っ込んで、怒って石投げたら長が大事にしてた亀に当たって甲羅割れちゃって、めっちゃ怒られて、しかも初デートで。まぁその後なんやかんやで雨振らせたのお前だ、みたいになってそのままズルズルいくんだけどさ。ほんとあれだよね、転んでもタダでは起きないよね、バイタリティーは半端ないわ。凄い、ほんと凄いわ」


くの字に曲げた足が、パタパタと踊る。


「にしてもどうすっかなぁ。私ちょっとこの先やってく自信ないなぁ。今回は、今回はたまたまそれっぽい事思いつたからいいよ。でもさ、なんかあるたびにやる訳でしょ?そうそう毎回都合よく思いつかないでしょ、あんな事。無理だね、ムリムリ、絶対無理。それについては自信あるよ私」


頬杖をついていた片手が伸び、何か掴むと口に運ぶ。


「まぁでも、背に腹は変えられないって言うの。この生活自体は気にいってるちゃぁ、気に入ってるんだよねぇ」


くるりとひっくり返ると組んだ腕を頭の下にひき、足を組んで寝転がる。


「基本ここに居て、あれ以外は食っちゃ寝食っちゃ寝してればいい訳だし、あの様子だと当分は、ばぁちゃんが作った実績でなんとかなりそうだし」




「困ります。急にそのような事を言われても、あ、お待ち下さい」


部屋の外から聞こえて来た声で影は飛び起きると、先程と同じ位置に正座する。


「巫女様。やはり巫女様の占い通り、ななの方角から、ななに乗った使者らしき者が現れました」


息を荒げた男が、ひざまづく。


「使者からの言伝です。『あかん、あかんて。あそこ、わしらが耕した土地でしょう。なんで勝手に入ってきたの、あかんて、わやしたら。何回も言っとるでしょぉ、人ん家に勝手に入ったらあかんって、あんまわやするようやったら、こっちにも考えがるでよぉ』とのことでした。この後はどのようにすれば良のでしょうか?お教えを」


影が小声でつぶやく。


「やっぱ、ないわぁぁぁ」





以上が今回発掘された、木簡を復元して分かった内容である。この発掘を指揮した山菱教授率いる南光大学考古学研究室によると、邪馬台国2代女王、台与とよが現存していた証拠になるのではとのことである。それにより、邪馬台国、ひいては卑弥呼の存在が国内の出土物から確認されたことになると共に、日本最古の木簡が更新された事になり、世紀を揺るがす大発見につながるのでは、との見解をしめしている。


※本文は意訳であり、あくまでも一般的に分かりやすくするための処置である。

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奇伝。それいけ邪馬台国 三夏ふみ @BUNZI

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