七番目の王子
高麗楼*鶏林書笈
第1話
西域では“七”は縁起の良い数字らしい。
彼が生まれた時、父親は
「この子はわしの七人目の息子だ。この子の人生は幸運に満ちているだろう」
と言って息子の将来を祝賀した。
これを聞いた母親も喜んだ。
父である李将軍には既に地元に妻子がいたが、職務で上京した際に知り合った母親に一目惚れして結婚した。その出会いが興味深かった。
暖かな春の日、長旅の末、都に着いた将軍は喉が渇き、水を求めて川辺に行った。その時、柳の葉を浮かべた水の入った碗を将軍に差し出したのが母親だった。
がぶ飲みしてむせないようにと、葉を浮かべたと言うのである。こうした配慮をしてくれた若く、可憐な母親に将軍は惹かれたのだった。
共に暮らし始めた二人の間にまもなく子供が生まれた。
最初の子供は彼で続いて弟と妹が誕生した。
さて芳蕃と名付けられた7番目の息子は、七歳の時に高麗王の弟の娘と結婚した。朝廷内の実力者になっていた李将軍を国王側は取り込もうとしたためであろう。その三年後には考功佐郎という爵位を得た。これも父親の力によるものだ。
朝廷内の実力者になった李将軍は、国が日々衰退していくことを感じていた。
そして遂に自身がこの国の頂上に立ち、国を再建することを決意した。
こうして彼は朝鮮国を建てたのだった。
王となった将軍は国家を盤石にするために政府機構を次々と整えていった。そうした中で自身の後継者〜王世子も決めなくてはと考えていた。
彼自身は若き王后康氏所生の撫安君に封じられた芳蕃を後継ぎにしたかったが、彼には資質が無いと周囲から反対され、弟の宜安君になった。
これに対し撫安君は特に不満はなかったが、先妻の王子たちは違っていた。
王世子の親世代にあたる彼らは、建国に大いに貢献したとの自負があった。それゆえ、まだ幼く何もしなかった異母弟が自分たちを差し置いて後継者の座に着くなど許せないのである。
彼らは実力行使すなわち世子を亡き者にしようとしたのであった。
撫安君のもとにも誘いがあった。実の弟を殺害など出来るはずはない、当然断った。ただ、口外はしなかった。
だが、結局、彼も殺されてしまった。殺害計画が実行された頃、彼は城門を出て郊外に逃れようとした。だが、異母兄側に知られてしまい、待ち伏せされ斬殺された。
その瞬間、撫安君の脳裏にかつて父が言った言葉が浮かんだ。
“七は縁起の良い数字だ、七番目の息子であるお前は幸運に満ちている”
自分の人生、果たして幸運だったのだろうか。
七番目の王子 高麗楼*鶏林書笈 @keirin_syokyu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます