第5話 激ムズ飛行アスレチック

 奇襲を仕掛けるためにも、まずはゴブリンの背後へ移動したい。


 背後へ移動している最中に存在がバレては意味がないので、ゴブリンの視界に入らないこと、羽の音が拾われない程度の距離を空けることが必須条件だ。


【超音波】


 超音波で周囲の地形を正確に把握し、条件をクリアできるルートを探る。


(こっちは……ちょっと近いな。こっちは視界に入るし……お、このルートならいける。でも、結構複雑だな)


 俺は今ゴブリンの右上にいる。ここからバレないための条件をクリアしつつゴブリンの後ろへ回ろうとすると、複雑なルートを通ってゴブリンの左上へ移動してから背後に回る必要があった。ハッキリ言って、かなり激ムズルートである。


 たまたまここの天井付近の地形が複雑だったことや、ゴブリンの位置や向きなどの条件が重なり難易度を押し上げてしまっていたのだ。


(俺って相変わらず運が悪いな……でも、行くしかないか)


 覚悟を決め、ゴブリンの背後をとるためのルートへと侵入した。


 チャンスは一度切り。何処かにぶつかったら音で気がつかれて終わり。かといって妥協したルートを通っても見つかって失敗だ。もし失敗して正面から戦うことになったら勝率はガクンと下がるだろう。


 この飛行が、今世の命運を分ける。


(集中しろ……)


 基本は左右への正確な水平移動でツララのような岩を避け、それでは避けきれないような形状の岩は上昇や下降をして避けていく。


 集中力を削りながらも立て続けに正確な動作を繰り返し……ようやくゴブリンの背後に到着。


(よし! よくやった俺! マジで空飛ぶ才能ある!)


 ここからはスピード勝負だ。せっかく背後を取ったのにゴブリンがこちらを向いてしまっては全てが台無しになる。早速仕掛けよう。


 接近中に気がつかれぬよう、バサバサと翼をはためかせるのを止め音を殺す。そして、ゴブリンに向かって滑空する。


 ゴブリンは人型の魔物なので、首が脆いはずだ。いくら体格差があるとはいえ、急所を狙えば大ダメージを与えることができるだろうと踏んでいた。


 思考をまとめているうちにもどんどん距離が縮まっていく。もうすでに、ゴブリンからは棍棒で攻撃できる位置に居た。しかしゴブリンはこちらに気がつかない。


 音を殺した甲斐があったみたいだ。作戦大成功である。


(よし! そんじゃこのまま)


 あとは攻撃が通じれば倒せる! 頼むぞ噛みつきスキル!


【噛みつき】


 ゴブリンにぶつかる寸前、そんな願いを込めながらも噛みつきスキルを発動させた。

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