5 これが天啓なの?
目をつぶっては、また見開く。これを数度繰り返した。
目の前には映画でしか見たことがないような西洋風の甲冑を纏った?剣士の?方々?正直よーわからん。甲冑って装備するもんなのか、着るものなのかそれすらわからんわ!
要するに瞬時に場面展開されたような状況。そんなことがあり得るのか?
あるんですね、これが。驚くよりは信じられないものを見ているようだ。
さらに追い打ちをかける出来事が・・・・・
どこに視線を向けても”王の威厳を放て”と文字が表示されている。
・・・・・・・・・・・文字起こしがされている。目立ちすぎでもなく、邪魔になるようなこともなく、視界の上の真ん中あたりに。意識を向けても自然にあるような感じ。
ほげー。なんじゃこりゃあ!?をしていると左側からタタタっと一人の従者らしき人物がこちらに駆け寄ってきた。
小走りに「王よ!王冠が乱れております!」と、言ったかと思ったら、あっという間に眼前まで来ていた。怯む間もなくその従者は小声で囁いた。
「吉村よ、わしじゃ」
「か・・・・・・」と話そうとしたが、口を塞がれた。
「シっ!その名は呼んではならぬ。バレてしまう。そうじゃな・・わしの事はウ様とでも呼べ」
はあ?
神様なのにバレたら困る?!
なんでウ様?ウサギだから?
よくわからんけど、ここは従うしかない。
「いきなりの事に、おぬしは困惑しておることじゃろうて。そこで、出来る範囲で力を貸しに来たのじゃ。じゃが助言のみじゃ。無いよりはマシじゃと思う。時間が無い故に手短にいくぞ。時を止められるのはさほど長くないのでな」いつもより早い語り口で話始めた。
力を貸しに来るのが助言だけって・・・・それに、時が止まっている?実感があんまり出来ないのだけど、そう言われればそんな気がしないでもない。神様が言うんだから止まっている事にしよう。
「ウ様、手助けと・・・・・・・・」と言いかけたところでギロリと睨まれた。
はいはい、大人しく拝聴させていただきます。
「黙ってわしの話を聞け。よいか、おぬしは今、この世界のとある王に転生しておる。その体は依り代じゃ。そして、これから敵が攻め込んでおぬしを討ち果たそうとするじゃろう。今回の天啓はその敵を倒すことではないかと、・・・踏んでおる。・・たぶん」最後は自信なさげにボソっとした調子で話した。
なにそれ!いきなり戦闘シーンから開始とは、設定が無茶苦茶すぎませんか?転生したら王様で、速攻で敵をやっつけろって?それ確実な情報なんですか?最後のボソっと言った”たぶん”って、ものすごーく気になりますよ!
それに素朴な疑問なんですが、天啓って戦いなんですか?! それ、違うような気がしますよ!もっと崇高なものとかじゃないんですか?
「わしが作り上げたのではない。文句を言われても、わしはただの伝令じゃ。だがの、これが天啓である事は間違いない。そして、なんとしても成功せねばならんのじゃ。なにが正しいかまでは定かではないが・・・」言い終えると神様は視線を外した。
おいいい!なんで最後に視線を外す!口調の自信なさげなんだよ。それじゃ助言じゃくて当てずっぽうですよ。何しに来たってレベルですよ!
塞がれた口を振りほどくように頭を左右に振って発言の自由を得た。適当すぎる神様の助言。俺は逆に聞きたい事は山のようにあるんだ。俺はウ様に聞いた。
「天啓には敵を倒せとか書いてないですよ?威厳を放てってウ様も仰ってたじゃないですか。折角のご助言も俺にはさっぱりわからないですよ。それで成功させろとかって・・・・限りなく・・・不可能に近いと思うんですが?・・あ?」
なんか、話している最中にだんだんむかっ腹が立ってきた。俺もギロリと睨んだ。強い視線にその意図を読み取ったのか、ウ様はバツが悪そうにポリポリ頭を掻いている。心なしか目が泳いでいるように思えた。
こいつ・・・!と思う俺の気持ちを躱すようにさらに助言を続けるウ様。
「まあ、吉村よ、その気持ち分らんでもないが、天啓に刻まれた文字が成功条件であることは間違いない。この展開から考えられるのは、至高は敵を討ち果たし、下限は退けるか逃げるかではないかと思うのじゃ。そちは至高に至る資質があるとわしは見込んでおるのじゃ!なので、下限は選択せんほうがええじゃろ」ここの話の下りは強めに話すウ様。
無表情は読めないけど、もしかして正解を言っちゃってるのかな?
ん?まてよ、至高に下限?
最初は敵を討てって言ったのに、話が違ってきてないか?ただでさえ疑心暗鬼の芽が息吹いているというのに。
いや、待てよ。バレたら困るって言うほどの時間停止をしてまでも、俺に助言をしているのは、言いたくても言えない何かがあるのかもしれないと考えた。下手に疑って話半分に聞くよりは、冷静に情報の一つとして捉えたほうが良いと思う。
ここまでの情報を整理すると、まず評価基準に至高から下限があるという事。
んで、ウ様としては高い評価で結果を出して欲しい。それは、自分がその上位神から評価されるという図式なのだろうか。それとも賭博として俺に配当が高いほうをやれと言っているのか。ちょっと考えても可能性の選択肢は広がりすぎて、短い時間ではこっちも賭けになりそうだ。
仮定として俺は、限りなく人間社会に近い仕事としての評価と考えた。このウ様も、上から無茶ぶりされて、苦肉の策として裏技を駆使しているのだろうか?
もしそうだとしても、俺はどうすればいいのか?と考え込んでいると「まずい、そろそろ時間じゃ」とウ様が呟いた。
時間が来たのか。後はもう俺次第だな。だけど、どうしても最後に一つ、聞きたい事があった。
「あのー、ちなみに至高で終わったとしたら私にも何かご褒美とかあるんでしょうか」
「どうかのう。わしが決めるわけではないが、恐らくはそなたか、そなたの近しい者に至福が訪れるのではなかろうか。なんせ天啓じゃからのう」無表情なので本意かどうか読めない。
「冤罪が晴れて、無事、無罪放免になるとかですか?」さらっと聞いてみた。
「そちが望むものが手に入る・・・・かもしれん。だが、どうなるかまではわからんのじゃ。すまんのう」無表情で話すウ様。
そこは演技でいいんで、すまなさそうな表情を出して欲しかったなー!
そう思ったら、神様の表情が本当にすまなさそうだった。まだ、時間あるかなと思い、もう一つ聞いてみた。
「あのーちなみにですが、下限になったりとか、結果的に失敗の評価になった場合はどうなるんでしょうか?」こっちも大事だね。
「安心せよ。失敗と断じられても、そなたは転生輪廻に奉還されるのじゃ。僥倖じゃ」
「転生輪廻?ああ、元の世界に戻るって事ですね」
「そうじゃ、元の世界でその生涯を終え、次の生に生まれ変わるのじゃ」
は?いまなんつった?一瞬で目が見開く。
その生涯を終えって?って・・・・死ぬんじゃねえかああ!!!!!!!!!!
瞬時にギロリと神様を睨みつた。ふざけんな!って言いかけた時、ウ様の姿が透け始めた。そして無情の言葉が頭に響く。
「時間のようじゃて。では、健闘を祈るのじゃ。さらばじゃ~~」
スーッと景色に溶け込むようにウ様は消えていった。
おおおおいいいいいいいい!まてや!こらあ!
いっちゃった・・・・・
呆然とする俺を無視するように、時間が動き出す。
カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチッ!
ゴーンゴーンゴーンゴーン。
どこからか開始を合図するかのように、時計台の鐘の音が鳴り響いた。
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