4 未来の種
ウサギの夢というか、幻覚?から数日が経った。あの日から全く出てこなくなった。良かったね、俺。あんな深層心理をちゃんと捨てられてて。夜もばっちり眠れているしね。
さて、日記でもつける事にしようと机に向かい、A4サイズの大学ノートを開いた。そうなのだ、おかしな夢を見たので、正常さを保つ目的であの日から日記をつける事にした。
日記を書くのは夕食後。さて今日は何を書こうかなと・・・・・・・む。
あれ、昨日までの日記が無い。それどころかノートが最初から真っ白だ。あれー?と思い、間違えて新しいの開いちゃったかな。いそいそと5冊セットのノートを一つ一つ確認していく。
え?全部真っ白だ。
これは・・・・・扉に向って看守を呼んだ。すぐに看守がやってきて何事だと言い放った。
「いや、日記をつけていた大学ノートが無くなったんですけど、何か心当たりとかないですかねぇ」
「収監室にある私物は許可なく接収も破棄も出来ないのは知っているだろう?」扉の小窓からつまらんこと聞くなよと、あからさまに嫌悪の表情が見えた。
「すいませんね。知っている上で御尋ねてしているんですよ。疑っているわけじゃないんですよ。本当に無くなったんですよ。お手数ですが確認してもらってもいいですか?」自分としては儀礼をしたつもりだったが、 言い方が気に入らないのか看守は無視して戻ろうとした。
「あのー次回の接見は弁護士なんですよー」ぼそっとだけど、ちゃんと聞こえるように言った。
それを聞いた看守は「一応確認してみる。時間的な確約は出来ないが明日中には正式に回答を出す。それまで大人しく待ってろ」と渋々聞き入れてくれた。
最近は囚人の人権侵害に、あれこれ煩い事を弁護士から教わっていた。当然、看守も周知されている。それにしても今の弁護士は中々優秀だ。おかげで快適に生活させてもらってます。
看守は踵を返して去っていった。さて、気を取り直して、もう一度ノートを全部探すことにしよう。なんせここでの日記は今後の貴重な資金源と考えている。タイトルも冤罪日記だ。これは売れるんじゃないかと俺は踏んでいる。遠い未来を考えるのは予想を生業にしていた癖かもしれない。そのためにはまず冤罪を晴らさないとね。ウサギの夢はオープニングを飾るに相応しいエピソードだしね。
あれこれバラ色の未来を考えながら、扉の小窓から机に向かおうと振り返った瞬間、俺は固まった。
その机の上に茶色い小さなウサギがいたからだ。
そして例のごとく仁王立ちで話しかけてきた。
「久しいの」渋い声が頭に響く。
「は、え?か、神様???」寝ている時限定じゃないのかよ!つか、マジかよおお!
「うむ、下級神じゃ。ところでの、わしとのやり取りは文字に残してはならぬ」
な!こ、こいつか!こいつが犯人か!俺のバラ色の未来の種を持ち去った奴は!
「神様、酷いじゃないですか!あの日記は俺がここから出た後の貴重なお金になる予定のものだったんですよ!」驚くよりも前に怒りが先に沸き上がった。
「ふむ、時として人から見ると残酷な行為も、神から見ればそれは善行なのじゃ。心して受け入れるのじゃ」ありがたいだろ?と言わんばかりのドヤ顔で。
「受け入れろって・・・・・・できませんよ!・・・すぐには。取り合えず返してください。お願いしま・・・・・・・・」言葉が続かなかった。なぜか不思議にスーッと怒りが静まる。そしてすんなりと腑に落ちた。
「よきよき、何事も最初は驚きと興奮をもって事が始まるのじゃ。よい経験をしたのお」うんうん、頷いて悦に入ってる。
その姿を見て、なにか不思議な思いが頭を駆け巡った。
怪しいと!もしかして神だけあって、何か特殊な力で無理くりやったった?
「ほほー、流石にわしが見込んだやつじゃ。勘がよいのお。そうじゃ神の前では人は何事も受け入れる事が是なのじゃ。それがたとえ己の命が消える事になるとしてもの。とてもありがいことなのじゃ」うむうむと満足げに頷いている。
なんちゅう、独善。俺の中の神様像が破壊された気持ちだ。しかも最後のほう、なんかすげー物騒な事をさらっと言っているよ神様。流石にそれはないでしょうよ。
「案ずるでない。わしは生死を司ってはおらぬ。上位神からの役目を果たすだけじゃ」
「神様、ありがたい説教は取り合えず置いておきまして・・・・・ひょっとして私の心を読めるんですか?」自信はないが、絶対なにかある。これだけは聞いておかないと。
「全てではないがの。さて、今日訪れたのは話の続きじゃ」
スパっと話題を変えてきた。いや、ちゃんと答えて下さいよーと言う前にまた、腑に落ちた。無駄なあがきだった。神様の言うとおりにしないと先が進まないようだ。
諦めて別の質問にした。
「続きって例の天啓とかって奴ですか?」
「そうじゃ、これより偉大なる神事をそちに授ける。心して聴くがよい!」
そう言うとウサギの姿がカッと光った。うわっと目がくらんで怯むくらんだ。眩しさに、よろけて座り込んでしまった。混乱から抜けようと頭を二度三度横に振る。
次に見たそこには美術室にあるような古代ローマ人の石像があった。
ドーンと鎮座している。
しかもビカビカという表現ぴったりな7色後光がネオンのように点滅しながら光っている。
ドギツイ色合いで、どうみても趣味の悪い目立ちたがりにしか思えない。
俺の中で神様のイメージが悪化していった。
石像は上半身だけで右腕が上がり、人差し指は天を指すように向っている。心なしか顎がくいっと上がっているようにも見える。まるで尊大さの塊のようだ。
束の間、コトコトコトと石像が小刻みに震え始めた。周囲にも得体のしれない緊張感が漂っていく。そして俺の頭に声が響いく。
「吉村康平よ!天啓を授ける!王の威厳を放つのじゃああ!」
ゴーンゴーンゴーンと頭の中に鐘の音が響き渡る。あまりの凄さに頭を抱えて蹲ってしまった。このっ!と、ぐっと歯を食いしばって石像のほうを睨みつけたが、もうそこには石像はなかった。
代わりに甲冑を着込んだ騎士が3人立ち並んでいた。
ふぁ?!・・・・・・
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