3 下級神
収監されて一人だと考える時間が多い反面、目的とか目標が無いとぐるぐる思考が周回していくだけ。ハムスターが一人で回る籠を延々と駆けているようだ。最初はおっかなびっくりでゆっくりと。慣れるにつれて速さが増す。何周回るのにどのくらいの早さだったとか、体の動きがどうのとか詰まんないことでも最初はそれでいい。飽きるのは早くて、すぐになんの意味があるのかと思ってやめても、それしかやることがなければ、またその籠の中に入っていくのだ。
不眠症に陥るには早かった。眠りたいんじゃなくて、眠ることで考える事をやめたかったのだ。睡眠導入剤を飲ようになるには、さほど時間がかからなかった。最初は軽い頭痛もあったが夢を見ることもなくぐっすり眠れることに満足した。ただ、しゃっきりと起きる事もなくなったけど。ちょっとした二日酔いのようにグズグズと毎朝を迎えるのだった。
その日もぼーっとしたまま、半開きの眼であたりをなんとなく見ていた。今日は格別に日差しが強いのか天井に近いところにある小さな小窓から強烈な光が差し込んでいた。寝始めたのか、朝なのか判断もつかないくらいにぼーっとしていた。
なんとなくその光のあたりを見やっていると、あたりが真っ白に広がっていく。薬の効果が段々強くなったのかな?
軽くパシパシと自分のおでこを叩いた。首を左右に振ってコキコキと音を鳴らす。さて今日は何かあったっけと思い出そうとした時、ふと前に小さなウサギがいた。ヒクヒクと鼻を動かしてこちらを見ている。
ウサギは可愛らしい仕草で俺のほうにぴょんぴょん跳ねてやってきた。そして目の前で止まるとキリっとした目つきで俺を睨みながら告げた。
「吉村康平よ、これより天啓を授ける」
声がおじさんっぽい
茶色一色の三毛猫みたいな可愛らしい姿なのに。
しかも声が渋いわ。
あれこれツッコミどころ満載だが・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・うん、つまらない夢だ。忘れよう。無視しよう。面白くもなんともないし。俺、動物とか特に好きじゃないし。はいお疲れさまでした。横になって目をつぶった。
今日は薬の利きが悪そうだな。んじゃ羊を数えよう。薬は増やしたくない。
「まてまて、吉村康平よ。寝るでない!それに我は羊ではない」
え?そこ?羊なの?つか、ボケるのかよ!
まあさ、どうでもいいよ。自分に突っ込んでもねぇ。
無視して羊を数えなおす。幻想や幻覚は断固拒否せねば!
そう、寝るのが一番だ。
「おのれ吉村康平よ。ここで寝てしまうと永遠にこの檻から解かれることがなくなるぞ。それでよいのか?」
仮にこれが幻想ではなくて夢ならば、それは自分の願望が多いと聞く。俺の夢に渋い声の中年おっさんウサギなんてキャラいないぞ。どうするかと思う間もなく、ウサギは勝手に続けた。
「ふむ、吉村康平よ。初めての事じゃて、驚くのも無理はない。まずは受け入れよ。これは夢でも幻でもない」
どうも話を聞かないと寝かせてくれないらしい。諦めて話を聞いてあげることにした。そうでもしないと自分のイカレ具合に参ってしまいそうだ。はいはいどのようなご用件で渋々起き上がろうとして半身で止まった。茶色い小さなウサギが偉そうに仁王立ちしていた。短い腕を必死に腕組みして。目つきも目じりが上がってキっと俺を睨んでいるようだ。
「ふふふ、神が顕現するときはありのままではない。依り代を使う事がほとんどなのじゃ。まぁ、ちと驚かせてしまったかもしれんのぅ」表情の割には余裕の態度で告げる。
はぁ、俺ってこんな願望があるのか・・・・・・・泣けてきた。自分に。
これ、終わらないと寝れない思考状態なんかな。気を取り直してウサギに話し掛けてみた。とほほだよ。
「神、今神って言いました?神様なんですか」(棒読み
「うむ。正真正銘の神様じゃ。といっても下界とのつなぎ役が主な役目じゃがの」
「もしかして自由の身にしてくれるために」(棒読み
「ほーっほーっほー。勘の良い奴じゃて」
見た目は普通のウサギなので、よーわからんが、恐らく喜んでいるんだろう。こんなありきたりのシチュエーションでご満足頂けるとは、僥倖でございます。
投げやりな気持ちで続けた。くだらん手続きに近しいけど。
「うさぎの神様。私はどのようにして自由の身となるのでしょうか」(棒読み
「天啓を熟す。ただそれだけじゃ。ただそれだけ」
エッヘンと、さも仰々しく話す姿に俺ってこんなのも望んでいるのかとさらに失望した。
もしかしてこのもう一人の自分が気分よくならないとダメなのかな?
ちょっと気持ちを入れてみた。俺的バブルで受けた接待のように
「えー、では早速そのありがたい天啓とやらをご享受願いますかぁ?」手もみをしながら、謙るように嫌らしい顔で話してみた。
ふむ、では・・・・・と神様が話しかけた時にビー、ビー、ビーと、携帯の着信音のようなものが聞こえた。ふむふむ、とウサギ神様はどっかに向って頷いている。
「吉村康平よ。ちと呼び出しがあったのじゃ。またなのじゃ」と言うとあたりが一瞬で真っ暗になった。
え?っと思って、パッと見開くとそこは間違いなくいつもの収監部屋だった。
一瞬で景色が切り替わっていた。
なんだったんだ。夢にしては・・・・いや変に考えてもろくなことはない。
ささ、寝よ寝よ。再び俺は横になった。
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