第24話:参拝者

 許さない。

 わたくしからすべてを奪ったあの女を、絶対に許すもんですかっ。


「いいことあなたたち。必ずあの女に、辱めを受けさせるのよ」

「へ、へへ。神殿ん中で女をやるのか」

「ぞくぞくするなぁ、おい」

「あぁ。豊穣の女神さまは、子宝の神様でもあるんだ。たんと種をつけてやろうぜ」


 ふふふ。

 わたくしが聖女になれなかったのは、男経験があったから。

 だったらあの女も同じようにしてやるわ。

 何人もの男に抱かれて快楽に溺れれば、きっとあの女も聖女の資格がなくなるはず。

 そうよ、そうなるに決まっているわ。


 聖女の就任式典であの女が、みだらな恰好で現れたらどうなるか。

 くふふ。見物だわ。






 ◇◆◇◆






「あぁぁーあ」

「もう、なんですのセシリアさん、さっきから鬱陶しいですわよ」

「だって憂鬱なんだもん。しゃーないじゃん」

「で、でも、もうすぐ就任式典ですよ? シャキっとしなきゃ」

「アリアの言う通りですわ。さ、そろそろ支度しましょう」


 今日で『今年』が終わる。

 同時に今日、候補から選ばれた聖女の発表が行われる。

 この二週間で浄化の魔法を習得した候補は、私を含めて六人。アデリシアと合わせると、七人が聖女になれた。


 大聖堂には一般信者も招かれ、その七人が大々的に発表しちゃうわけだ。


 まぁ聖騎士を選ぶのはその後で、そこは関係者だけでやるらしいけど。

 そのことを考えると、憂鬱で仕方がない。

 誰も選びませーんって、どうやって言おう。

 言ったあとで、それはダメって言われたらどうしよう。


 この数日そんなことばっかり考えてて、なんか精神的に疲れた。


「じゃあみなさん、また後で」

「はい、アデリシアさん」

「セシリアさん。あなたもちゃんと支度なさい」

「ぶぅー」


 みんなさっさと支度部屋に行ってしまった。

 法衣に着替えてめかしこんで……面倒くさい。


「あぁあ、お菓子食べたいなぁ」


 とぼとぼと歩き出す。そんなに長い廊下じゃないけど、ずごーく長く感じる。

 あと――


 くるりと振り返る。

 さっきからずーっと、つけられてる気がするんだけどなぁ。

 気のせい?


「支度室にお菓子あるかなぁ。あるといいなぁ。あー、もうやってらんねぇってあれ? ドアの鍵、かかってるじゃん。もう、ちょっとー!」


 ガチャガチャやってると、何故か急にガチャリと音がしてドアが……開いた。


「えぇー……ちょっと怖いんだけどぉ」


 室内には誰もいない。

 でも、窓が開いていた。






 ◇◆◇◆






「よお。困るだろうが。ここは一般信者は立ち入り禁止区画だぞ」


 セシリアを狙ってつけてた野郎は五人か。

 どいつもこいつもブタみてぇな面しやがって。


「おい、てめーら。誰に依頼されてあいつの後を付けてやがった」

「な、ななん、なんのことだ?」

「お、俺たちは道に迷って、本殿に入っちまっただけだ」

「ほぉ。ここが本殿だってことは分かっているのに、道に迷ったのか」 

「うぐっ」


 口を割らねえのなら、少し痛い目に会わせるか。


「言いたくなったら教えてくれよっ」

「がはっ」

「お、おい、突然何をするんだっ」

「こ、この野郎! おい、相手はひとりだぞ。やっちまえっ」


 そのひとりにあっさり捕まっておいて、よく言うぜ。


 ・

 ・

 ・


「ずびばぜん。もうゆるじでぐだじゃい」

「誰に頼まれた? で、何をするつもりだったんだ」

「い、いだいぬじは、金髪の女だ。だばえは、じらねぇ。金をぐれで、いい女をじょうがいずるっていうがら」

「そ、その女を凌辱じだあど、大聖堂の前に放りだぜっで」

「凌辱、だと?」


 あいつを……セシリアを抱こうとしてたのかこいつら。

 セシリアを――


「ぐあぁぁ、は、はなじだらゆるじでくれるんじゃながっだのかぁ」

「は? 誰がそんな約束した」

「あだ、あだだだだ。も、もうがんべんじでくれぇ」


 依頼主は金髪の女……後妻の娘かっ。

 ったく、まぁだ諦めてなかったのかよ。


 先日、暗殺ギルドはセシリアの件から手を引いた。

 依頼主が支払いを拒否したか、支払い能力なしとギルドが判断したからだろう。

 だから今度は薄汚ねぇ奴らを使ってきたってのか。


「この分だと、まだ何かやるかもしれねぇな」


 就任式典にも忍び込まなきゃならねえようだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る