第2話 天界追放(2)

 最低限の身支度を済ませ、最高神様のいる大神殿の奥の部屋へ向かった。


 久々の日中の外出だったので道中で何度も日の眩しさにくじけそうになったが、なんとか部屋の扉の前までたどり着いた。見慣れた扉だ、昔は何度もこの部屋に呼び出されていたな……。


 さ、どうやって入ろうか。やっぱりしおらしそうに、反省してますって感じで入るべきかな?

 

 いや、待てよ。もしも私を呼び出した理由が久しぶりに私と話したかったから、みたいな理由だったらどうだろう。その場合、申し訳なさそうにしていたら何か怒られることがあるのかと勘繰られたりしないだろうか。


 よし、ここは何も後ろめたいことがないかのように、明るくハイテンションで行くことにしよう。


 部屋の扉を軽くノックし、返事を待たずに勢い良くドアを開けて入室する。


「失礼しまーす、最高神様久しぶりー!元気だった?」


 部屋の中に一時の沈黙が流れる。あ、ミスったかも。


「……メリーか、よく来たな。とりあえずそこに座りなさい」


「は、はい」


 やばー、全然そんなテンションじゃなかった。やっぱり寝不足の頭であれこれ考えるべきじゃなかった……。


 脳内で反省しながら、椅子を引き腰掛ける。


「こうやってお主を呼び出すのは久しぶりじゃな。かつて、お主が女神学校の問題児じゃった頃は毎日のように呼び出しては説教をしておったな。天界でも数千年に一度の問題児じゃった……」


「はは……そ、その節はたいへんご迷惑を……」


 思い出話が始まっちゃったじゃん、これ絶対長くなるやつだよ。


「……じゃが、数万年に一度の天才でもあった。多くの者がお主に期待を寄せておった」


「…………」


「それなのに、お主は学校を卒業して一人前の神として世界の創造、管理を始めるようになった途端、急に堕落してしまった。本当にどうしてこうなってしまったのか……」


耳の痛い話だ。


 そもそも私は、より良い世界を創るとか、信仰をたくさん集めるとか興味ないんだ。学校では奇跡の習得が楽しいから頑張ってただけ、人間の文化や慣習が面白いから勉強していただけ。それは私が楽しいからやっていただけで、遠くにいる名前も何も知らない人間たちのために学んでいたわけではない。


 それなのに、周りが勝手に期待を寄せるから、それに応え続けるためにこれからずっとつまらない仕事に従事しなくちゃいけないのかってうんざりして、それでこうなったんだ。


 誰かのためだけに自分を殺して生きるなんてつまらない。


 けど、こんな愚痴は言えない。なぜなら他の神たちにとってはそれが当たり前で、誰かのために奉仕して生きるのが喜びなんだと本当に思っているんだから。

 そう、おかしいのは私の方なのだ。

 だから、私は黙って話を聞くしかない。

 異議を唱えたところで理解されない。自分が異物であることを再度実感するだけだ。それはとても虚しいことだ。



「ワシはいつかお主の目が覚めて、その才能を発揮してくれる日が来るのではないか、そう思っていた。そんな日が来ることをずっと待ち望んでおった。しかし、もう駄目なのじゃ」


「だめ?」


「……お主の信仰が潰えてしまった」


「………………ほえ?」


「お主が管理している世界、そこにお主を信仰する者が一人もいなくなったということじゃ。天界の法において信仰を失ったものは天界を追放をすることになっておる」


「つ、追放!?」


「非常に残念じゃ。しかし、これもルール。法は何よりも尊重されるべきものじゃ」


「いや、ちょ、待っ………、そんなルール知らないんだけど!?学校でも習わなかったし」


「うむ、何せこの決まりが適用されることなど、天界の長い歴史において一度もなかったからのう。学校でも教えていないのじゃ」


「いやいやいや、ならそんなの無効でしょ!後出しでルール押し付けるとかおかしいって!」


「確かに、お主の言うことは一理ある。じゃが、ルールはルールじゃ。守らなければならない。それに、お主が真面目に仕事をしていればこんなことにはならなかったはずじゃ」


「はぁぁぁああ!?」


何言ってるんだこのジジイは、無茶苦茶すぎるって。


「というわけで、さよならじゃ、メリーよ。どうかたくましく生きおくれ。」


途端に私の体が光に包まれ始める。


「え、なにこれ!?もう始まるの?」


 そう言ってる間に下半身が消えつつある。ちょ、ちょ、えまじで………?


「せめてもの餞別にわしの加護を授けておこう。一回限りお主のことを守ってくれるじゃろう。お主がこれからいくのはここに比べて危険なとこじゃからな」


「危険んんん!?うそでしょ!?ってか追放ってどこに、、、、」



「それは、お主自身が創った世界じゃ。自らが責任を放棄した世界をその目で見て反省するのじゃぞ」


 くそジジイがしゃべり終えると同時に、私の意識は完全に途絶え、天界から消滅した。




♢♢♢♢




 次に意識が戻ると、体にものすごい圧を感じた。


 全身に漂う不安定な感覚。急に足場が崩れたかのような………、

いやちがう、本当におちてる!!

 上空からおちてる!!!

 めっちゃ落下してる!!!!


「う゛あ゛あ゛あぁぁぁぁあああ!!!!!」


 視界の先にある緑の群体が徐々に近づいてくる。これは……森か!?


 混乱する意識の中で、退屈で平和な日々が壊れてしまったことを私は確信した。

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