怠惰すぎて信仰を失った女神さま、天界を追放されてしまう~しょうがないので知恵と工夫でハードな下界を生き抜こうと思うよ

すすに

第1話 天界追放(1)

 神様の朝は早い。


 日が昇るとともに目覚め、純白のドレスに着替えて天界で随一の広さを持つ大神殿に向かう。朝礼があるからだ。


 朝礼では、神としての在り方を説いた歌を歌わされる。それが終わると通常業務に取り掛かる。各々が創造した世界の管理・運営だ。天界では、学校を卒業した者は一人前との神として一つの世界を創造し、自らその世界を育てる義務を負う。


 「鏡」と呼ばれる神具があり、これを通して下界に干渉することが出来る。「鏡」を用いて自分の受け持つ世界を監視し、神の奇跡の力を行使して人々を導きつつ、信仰を集める。


 

 信心深い者には奇跡による慈悲を、

 涜神的な者には天罰を。


 停滞している文明には、新たな植物や動物を誕生させたり、聖職者に神託を与えることで発展を促す。


 逆に文明が進みすぎて神への疑心を覚えた人々は天災でその芽を摘むことで、信仰を効率よく収集している。


 信仰を多く集めている神ほど優秀とされ、高位の神になれるらしい。




 ……こんな感じで神様の仕事は非常に忙しい。だが、これは一般的な神の話。

私は違う。


 まず、仕事をしない。


 朝礼にもここ数百年出ていない。


 夜通しで、他の神の庭からくすねた桃を片手に「鏡」を通して人間界の書物を読み耽っている。これがなかなか面白い。人間の娯楽を生み出す力は目を見張るものがある。ここ天界はクソ真面目でつまらないやつらばかりだし、娯楽の一つもない。人間を正しく導くことが至上の喜びとか言ってる変態たちの集まりなのだ。


 数々の本を読み漁っていると、日が昇ってくる。すると、急に眠気に襲われる。長年の生活習慣のせいでそういう体になってしまっているのだ。


 そうして神殿から聞こえる歌を子守歌に眠りにつく。


 これが私の毎日。こんな生活を数百年繰り返している。好き勝手やって楽しく生きているように見えるが、別にそんなことはない。真面目にやるよりはましだ、という程度のもの。惰性で続けているだけの日々だ。


 今日も日の出とともに眠りにつく、ああ、起きたら退屈のない世界になっていたらいいのに。



♢♢♢♢



 自室の戸がたたかれる音で目を覚ました。


 眠気の残り具合から、まだ昼頃だろうと推測する。

 こんな時間に一体誰だ?


 眠い目をこすりながら、ふらふらした足取りで部屋の入口へ向かい戸を開ける。


「おはようございます、メリー」


 そこに立っていたのは私と同窓の女神セリアだった。上品な桃色の髪に、

凛々しい顔つきをした彼女は見た目通りの責任感あふれる女神であり、かつて同じ女神学校で学んだ仲間でもある。


「それにしても、相変わらず堕落した生活を送っているようですね」


 そう言って私の散らかった部屋を見渡す彼女の眼がある一点に止まる。


「あれは、私が育てている桃じゃありませんか。貴方、また盗んだのですか……」



 ……しまった、机の上に桃を置きっぱなしにしていた。そんなに呆れた目で見ないでくれよ、学生時代は私を尊敬のまなざしで見てくれていたというのに……。


 ばれてしまってはしょうがないので、素直に謝っておくことにする。


「ご、ごめんね。セリアの桃があんまりにも美味しいから、つい……」


 謝るついでに褒めておく。悪い気はしないんじゃないか?どうかな?

流石にだめかな?


「はぁ、ほんとに救いがたい方ですね、貴方は。まぁ、いいでしょう。それにもう盗まれることはないでしょうし」


 お、許してもらえた?ラッキー!……っていうか、もう盗まれることはないってどういうことだろう……?

 

 怒らないならこれからも全然盗むけど?


「それよりも、私がここに来たのは貴方に伝えなくてはならないことがあったからですよ、メリー」


「そうなの?」


「ええ、最高神様があなたをお呼びです」


「うげっ、最高神様がぁ!?」


 最高神、天界を統べる一番偉い神様。髭がもじゃもじゃのおじいちゃんで、昔は

しょっちゅう呼び出しを食らっては叱られていたっけ。


 でも、最近は呼ばれなくなって、ようやく諦めてくれたのかーとか思ってたんだけど……。


 今さら何の用事なんだろう。何だか嫌な予感がするな。


「それっていつ行けばいいの?私、もうちょっと寝たいんだけど……」


「何馬鹿なことを言ってるのですか?当然、今すぐですよ」


「えー」


「といっても流石に身なりを整えた方が良いでしょうね。髪もぼさぼさ、服も薄汚れてますし」


「へいへい」


 外に出ない生活を送っていると驚くほど自分の身なりに無頓着になるんだよな。

めんどくさいなあ、と思いながら着替えを探しに行く。


「私はこれで失礼しますが、その、メリー……」


「うん?」


箪笥の中で着替えを探しながら背中越しにセリアに応える。


「……いえ、何でもないです」


 歯切れの悪い言葉を残したままセリアは去っていった。何を言おうとしたのか気になるが、今はそれどころではない。

 最高神様のところへ赴かなければならないのだから。

 

 はあ、憂鬱だ。てか、眠いし。マジで。

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