いつもの7番
低田出なお
いつもの7番
夕食の仕度中に鳴った着信音は、ワンコールで聞こえなくなった。
テーブルの上のスマートフォンに目をやると、上司とゴルフに出掛けている主人の名前が表示されている。
「なんかあったかな…」
一抹の不安を感じ、こちらから掛け直そうと手に取ると、画面に触れるより先にメールアプリにメッセージが届いた。
『いつもの777777、当選したよ』
文面を見て驚く。信じられない、というのが正直な感想だった。あの冗談みたいな宝くじが当たったのか。
付き合い始めた学生の頃から、彼は定期的に宝くじを買っていた。購入時に番号を選ぶもので1週間ほどで結果が出る。
そんな彼は決まって、全ての桁を7で塗りつぶす。
「もっとバラバラに選べばいいのに」
「もしそれで777777が当たりだったら、一生後悔するよ」
そんなやり取りがお約束だった。
『すごい』
『いくら当たった?』
『5万』
『大当たりじゃん』
当選番号発表が表示されたサイトのスクリーンショットが送られてきては、信じざるを得ない。次第に懐疑心は喜びに変わり、気が付けばやり取りしながら浮足立っていた。
宝くじなど、当たるかもという期待感を楽しむものだ。仮に当たったとしても、繰り返し購入するのであれば、いずれ当たっても収支はマイナス寄りだろう。
しかし、それを言うのは野暮である。嬉しいものは嬉しいし、それが昔から繰り返し選んでいた番号ともなると、何とも感慨深い。
そもそも三十路の男の趣味と考えるなら、週に一度の宝くじなど可愛いものだ。その趣味の代金が一部でも帰ってきたと考えれば、5万円は大金過ぎるくらいだと言えた。
今日は彼の好きなお高めのウインナーも焼いてあげよう。少しだけ豪華な夕食の完成図を思い描いた。
彼が帰ってきたのは家を出る際に言っていた通り、18時を少し回った頃だった。疲れているようで、玄関から聞こえた「ただいま」は、どこか絞り出したような印象を受けた。
玄関へ向かい、座って靴を脱ぐ背中に声をかける。
「お帰り。やったじゃん」
「うん? ああ、スコアはまずまずだったよ」
「スコア?」
「え?」
いまいち会話が噛み合わない。靴を脱ぎ終わり、側にゴルフバッグを立てかけるその顔には疑問符が浮かんでいた。
「…宝くじ当たったんじゃ?」
「えっ」
「えっ、て何その反応。メールくれたじゃん」
彼は怪訝な顔をして、腰のポーチからそそくさとスマートフォンを取り出す。画面を何度か操作すると、合点がいった顔をした。
「ああ、そういえばもう連絡してたね」
「……」
「正直、俺もまさか当たるとは思ってなかったよ。日頃の行いがよかったからかな」
嬉しそうに笑う彼に冷めた視線を向ける。
私は無表情のまま告げた。
「ねえ、スマホ貸してくれる?」
「うん? なんで」
「拭いてあげる。ファンデーションが付いてるから」
いつもの7番 低田出なお @KiyositaRoretu
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