多くの試練の末に

もやしいため

第1話

「『七つの試練アンラッキーセブン』っておとぎ話を知ってるか?」


 遥か昔、神は罪を犯した人類を楽園から追放した。

 その原罪を雪ぎ、楽園に返り咲くには魔物を狩らねばいけない。

 それも世界を蝕む『大罪』の烙印を捺された特別なヤツを。


【強欲】ゴブリン。

【嫉妬】マーメイド。

【色欲】サキュバス、もしくはインキュバス。

【傲慢】グリフォン。

【暴食】ケルベロス。

【憤怒】ドラゴン。

【怠惰】フェニックス。


 その天啓を授かった御子は、その七種の魔物で撃破目標一覧レッドリストを作成し、世界に配布した。

 いつの日か、原罪を雪ぐ者が現れると信じて。


「イマドキの学者たちは『未発達な科学が解明できなかったモノの総称』と言うかもしれん。

 でもな、関わりのない世界のあらゆる地域で、同じような魔物や伝承が存在するのはおかしな話だろう?」


 しかし人々は手を結ぶどころか戦争に明け暮れる。

 多くの同胞ひとを吊るし、あらゆる野山を焼き払い、水や空を汚し続けた。

 科学の発達により、すべてを伝承ファンタジーで片付けられるくらいの傍若無人ぶりだ。

 どれほど神を冒涜すればいいのか、と神話ヒストリーが訴えてくるようだった。


「だから発想は逆。考えるべきは『どうして魔物は居なくなったのか』なんだよ」


 グラスの中の液体を揺らしながら、冒険家デイブは憂鬱気に語る。

 きっと答えは未だ見つかっていないのだろう。


「そこを出発点に考えれば、人類が科学を信奉するより前に『七つの試練アンラッキーセブン』を乗り越えていることになる」


 ではなぜ、この世界は未だに『楽園』ではないのだろうか。

 世界を渡り歩く彼が珍しく受けてくれたインタビューだが、どうにも雲行きが怪しい。


「なぁ、君はどう思う?」


「それはどういう――」


「俺は『七つの試練アンラッキーセブン』に至った英雄は居たと考えている。

 だが、それによって魔物という形を持っていた『大罪』は世界にばら撒かれた・・・・・・・・・

 過去に比べて遥かに理性的になった現代でも、世界平和には全く及ばない。

 それは『器を壊された大罪』が世界に蔓延し、場合によっては密集して『ナニカ』を起こしているんだ、とね」


 全てを見通すような目で冒険家デイブは語るのだった。

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