恋の訪問

高見南純平

デリバリー

 好きな人が家に来た。

 私が呼んだんだ。


「こんばんは〜、イイピザで〜す」


 彼は爽やかな笑顔を浮かべながら、ピザ屋のドライバーの格好をしていた。

 手には、ボックスに入ったピザがあった。


 私が電話して夕食用のピザを頼んだ。そしたら、綾井あやいくんがやってきた。バイクの免許持ってるのは知ってたし、なにかのバイトをしてるのも知ってた。


 でもまさか、私の所に直接やってくるなんて。


「……あれ?? 桜さんじゃん。ん、やっぱそうじゃん」


 綾井くんは、持っている伝票を確認して、私がクラスメイトの桜三音さくらみつねだということを認識した。


「っあ、っえ、こ、こんばんわ」


 インターホンで確認してから来れば良かった。

 ピザ屋さんってことは分かってたから、音がなったらそのまま玄関に来てしまった。


 そしたら、こんなに緊張しなかったかもしれないのに。


「偶然だね。っあ、ピザ確認して貰っていいっすか?」


 素の感じになっていた綾井くんは、仕事をしなくてはいけないことを思い出して、急に敬語になった。


「えーと、じゃあ確認お願いします。ピザLサイズ一枚と、サラダとチキン盛り合わせ。

 これでおっけー??」


 そう言いながら、私にピザを渡してきた。

 受け取ったけど、手が震えていて落としそうで怖かった。


「うん、あって、ます」


「うぃーす。支払いが5450円です」


「はい、これ、ちょうど」


 私はピザを床に置いて、すでに用意していたお金を渡す。まだ呂律が回らず、ロボットみたいなカタコトになってしまう。


「うっわ、ピッタリじゃん。

 マジ助かるわ〜」


 嬉しそうにしながら綾井くんは、お金を受け取って腰につけたポーチにしまっていく。


「んじゃ。ありがとうございました!」


 綾井くんは被っていた帽子をとって、元気よくお辞儀をした。


 あっという間だった。

 好きな人の2人きりの時間。


 綾井くんが玄関の扉に手をかけた。

 すると、何故か私の方に振り返った。


「っあ。忘れてた。

 また明日、桜さん」


 とびっきりの笑顔を、綾井くんは私に向けてくれた。


 そうだ。

 明日は月曜日。

 また綾井くんに会える。


 でも、私たちは挨拶さえしない仲だ。


 けど、今日のことがあったから、綾井くんから喋りかけてくれるかも。


 彼はそういう人だ。


「ま、また明日」


 綾井くんは今度こそ、玄関を後にした。

 行ってしまった。


 明日、勇気を出して喋りかけて見ようかな。


 もっと綾井くんと過ごしたい。


 私はそんなことを考えながら、ピザを持ってリビングに戻る。


 頼んだ時には、ピザのことで頭がいっぱいだった。


 でもこのあと食べたピザの味を、私はよく覚えていなかった。

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恋の訪問 高見南純平 @fangfangfanh0608

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