第5話 オマケ 東城君


 これは、俺がカフェに入った直後の時。


 ――カラン、コロン


 俺の後に続いて、お客さんが来たようだ。

 連続でお客さんが来店するなんてこの店にしては珍しい。

 確変か?


 田中さんはパタパタと入口に向かった。


「いらっしゃいませ、本日は何をお探しですか~?」


 アパレル店員か。


 頭の中でツッコミを入れながら俺は様子を見守る。


 入ってきたお客さんは――なんと、東城だった。

 月永先生にチョークで撃ち抜かれた形跡である白い点がまだ額に残っている。

 誰か教えてやれよ。


 クラスの知り合いが来るとは、別人としてバイトしたがっている様子の田中(佐藤)さんもやりづらいだろう。


「――あっ、すみません。ナマステーですね」


 インド人じゃねぇよ。

 こいつ、全然ブレねぇな。

 東城も自分の額に点があるの気づいてないから首傾げてるじゃねぇか。


 そのまま東城は俺の前の席に案内された。

 近い近い、なんでガラガラなのにここに集めるんだよ。

 東城も俺に気が付いて二度見してんじゃねぇか。


「チャイですが、ウチでは『マサラチャイ』や『チャイラテ』がありますね~。流石に本場インドの味は出せないと思いますが」


 だからそいつインド人じゃねぇよ。

 チャイを執拗に勧めるなよ。

 東城もチャイしかないと勘違いしてチャイラテ注文しちゃったじゃねぇか。


 数分後、権田さん特性のチャイの香りが店内に香る。


「――お待たせしまし……キャー!」


 そして、田中さんは躓いて運んできたチャイラテをぶちまけた。


 チャイラテの入ったカップは東城の頭に当たり、そのまま俺がゲームをするためにテーブルに直置きしているスマホまで濡らした。

 チャイにまみれた俺のスマホを見て田中さんは顔を青ざめさせる。


「あぁ、ごめんなさい! お客様の唯一のお友達が!」


 俺のスマホ、そんな風に思ってたの?


「防水だから大丈夫だ。それより東城の頭を拭いてやってくれよ」


「そ、そうですねっ! 本当に申し訳ございません! 今タオルでお拭きしますね!」


 そう言って、田中さんは持ってきたタオルで東城の濡れた頭を巻いていく。

 そして……完全にターバンの状態になった。


 さらにインド人にするんじゃないよ。


「お席の方も拭きますので、右側の方に移って頂いてよろしいですか?」


 インド人を右に置くな。

 いや、インド人じゃないけど。


 今日は散々な一日であっただろう東城はチャイラテ飲むとようやくホッと一息つく。

 どうやら権田さん特性のチャイラテはお気に召したらしい。

 東城もちゃんと生きるのが楽しそうで安心する。


 そして、カフェに置いてある雑誌を手にした。

 今月の特集は『黒こげ肌でモテ男』……。


 お前からインド人に近づくんじゃないよ。


 ようやく落ち着いたひと時を過ごすことができた東城は満足げに店を出て行った。

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クラスの地味な佐藤さんが実は可愛いことを俺だけが知っている 夜桜ユノ【書籍・コミック発売中!】 @yozakurayuno

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