4.ぼっち飯レクイエム

 海成霊園は小高い丘の上にあり、海が見渡せた。

 わずかに黄色がかった空は、これから夕暮れが訪れることを予感させる。

 崇三根家と彫られた墓石の前で、俺は手を合わせた。

 弟は、ここに眠っている。

 線香を上げ、弁当を供える。

 母の手作り弁当は、リュックを投げたりしたせいで、おかずが偏り、白米も茶色の汁に染まってしまっていた。

 自分の分の弁当箱を開け、少し遅めの昼食を、弟と一緒に食べる。

 母の味は変わらずそのままで、噛みしめるたびに、あの日の記憶までもが呼び起こされた。


「何があったか、聞いてもいいか」


 タクヤはポケットからタバコを取り出し、火をつけた。


「俺が中学二年の秋に、弟の優人(ゆうと)は亡くなりました。十一歳で。交通事故でした」


 丘を流れる風に、タバコの煙が消えていく。


「その日、俺は弁当を家に忘れちゃって。それで、弟は朝、俺の中学校に寄ろうと、いつもと違う道を……」


 声が震えてしまう。

 タクヤは何も言わず、ただ聞いている。


「弟は、俺のせいで死んだんです。俺の弁当のために。だから、誰かと楽しく食事をする権利なんて、俺には無いんです」


 優人が死んでから、俺は“ぼっち飯”を始めた。

 それが、俺ができる、せめてもの償いだった。


「見上げたエゴだな」


 タクヤは煙を吐き、そう呟いた。


「……なんとでも言って下さい」


 なんだかんだ言って、俺は免罪符が欲しいだけなんだろう。

 己を罰することで、罪から逃げているに過ぎない。


「でもよ。亡くなった弟さんに本当に報いたいなら、今のお前の行動は矛盾してるんじゃないか」

「……何がですか」


 タクヤを見る目に力が入る。


「弟さんは、お前が皆と一緒に昼飯が食えるようにって、わざわざ弁当を届けようとしたんだろ」

「それは……」

「弟さんの思いを、踏みにじってるのはどこのどいつだよ」


 言葉に詰まってしまう。

 弟の、優人の、思い。

 俺は……、俺は……。


「帰りの面倒まで見ろとは言われてねえ。気が済んだら、てめえで帰るんだな」


 そう言うと、タクヤはバイクにまたがり、去って行った。

 エンジン音が遠くなる。

 陽が沈むまで、俺はただ、泣き続けた。

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