第12話 秘め事

「調子はどうだ?」


覗きこんだ先で『ショウ・ナカモト』少佐は、女性パイロットを案じていた。


「大丈夫です。問題ありません」


「そうか、なら良かった。」


言葉では安心したと言っているものの、少佐の表情は冴えなかった。


「あれ以来。トラブルも無いと聞いている」


「はい。『セレスト』との『インテグレーシステム』でのシンクロも良好です」


(『セレスト』・・・・・それがあの機体の名称か)


「明日の実戦はやれそうか?」


「大丈夫です。必ず勝利します」


「期待している」


「申し訳ありません少佐。いらっしゃっていると気が付かず」


男が2人の会話に割り込み敬礼すると少佐も返した。


「『シュン·チューゲン』中尉。ご苦労。機体の整備は万全か?」


「はっ。いつでも実戦に臨めます」


(あの人、無口な印象だけど普通に会話はするんだ・・・・・それより少佐の出身は『チャイア』だったのか)


「そうか、期待している」


「ハッ!少佐の期待に必ずやお応えしてみせます」


「…………そういえば少佐。先程この者が紛れ込んでいたのですが、どうしますか?」


「紛れ混んでた?」


「ウームーーー」


(タリサ!?なんでこんなところに!?)


シュン中尉が口を塞がれ腕を後ろに拘束されたタリサを連れて来た。


「君は、タリサ少尉。何故ここに?」


「わかりません。私達が『セレスト』の調整中に入ってきたようで、ミホ少尉が気がつき拘束しました」


「あのセキュリティーを突破したというのか?」


「破壊された痕跡は無いのでそうではないかと」


「ムウ〜ウゥゥ〜」


「…………拘束を解いてやってくれ」


「よろしいのですか?」


「私が把握している限り、武力行使の可能性は皆無だ」


「わかりました。」


拘束を解かれたタリサは人目を憚らず泣き出した。


「おっおい!泣くな!!」


「お兄ちゃん〜お兄ちゃん〜」


「少佐。どうされますか?」


「…………そこにいる者を呼べばいいのでは?」


「!?」


「そこに?誰かいるのか?」


ミホ少尉の指は明らかに自分を指していた。


「……………」


ミホ少尉は拳銃を取り出し寸分も狂わず発砲する。


ダニエルはまさかと思い金網から離れていたので無事で済む。しかしバレていることを悟り降りることにした。


「すみません。降りるので、なにかクッションみたいなものあれば敷いて貰えませんか?」


「ダニエル少尉!?…………シュン中尉。用意しろ」


「ハッ」


下にはマットが敷かれ、ダニエルは7mはあるめあろう高さからマットに身を委ねた。


「ありがとう御座います。」


「何故君がここに?」


「すみません少佐。タリサ少尉を探していたら迷いまして…………」


「迷ったね…………」


「そうなんです………アハハハー」


「お兄ちゃん!!」


タリサはダニエルに抱き着いた。


「怖かったよ〜」


「なんでこんなとこにいるタリサ?」


「だって、あのコに呼ばれたんだもん」


「呼ばれた?」


「うん。」


「あの機体が君を呼んだというのか?」


「うん」


「どうやってセキュリティーを通った?」


「だって勝手にドアが開くんだもん。タリサ何もしてないよ?」


「!?」


(どういうことだ?あの機体はミホにしか反応しないはず、何故タリサ少尉に………)


「すみません。部下が」


深々と頭を下げるダニエル。


「貴様ら、前回といい今回といい無許可で他の勢力に干渉するとはどういうつもりだ?まさか戦争でも始めたいのか?」


「いえ、自分達はそのような」


「一連の出来事は外交問題に発展する事案であり下手をすればそれこそ…………」


「シュン中尉。もうよい」


「少佐!しかし」


「タリサ少尉が何故ここに入れたのかはわからないが、特に情報を盗られた訳じゃない。それに今は『EMNG(エミング)』内で武力衝突をしている時間は無い」


「ダニエル少尉。今回は不問とするが、君の少尉に対する監督責任は目に余る。今後はこのような事態とならないように、しっかりと監督してくれ」


「はい!申し訳御座いませんでした」


「…………よし。ならば即刻立ち去るがいい」


「ハッ!失礼致しました。ほら行くぞタリサ」


「ごめんなさい。…………バイバイ〜」


タリサは『セレスト』に手を振ると、ダニエルに連れられその場を後にした。


「…………よろしいのですか少佐」


「念の為。今すぐ『セレスト』に搭乗し、盗まれたデーターが無いか確認するんだ」


「ハッ!」


「了解」


思わぬ形で『チャイア』の面々と面識を持った2人。しかし彼等の謎は深まるばかりであった。

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