第11話 謎

「ようやく私達の番ですね大尉」


一室で寝そべる男女。女はその時が楽しみかのような笑みを男に向ける。


「こういう時に大尉はやめろパトラ」


男はその笑みを不服そうにあしらう。


「あら、常に緊張感を持てと仰っていたのは大尉ではありませんか?」


「君はこれも職務の内とでも言うのか?」


「・・・・・もう。冗談じゃないアヌール。ただでさえ融通効かない頑固者みたいな性格してる貴方がそんな深刻な表情してたら、からかいたくもなるわ」


「・・・・・・」


「大丈夫よアヌール。私達と『ユクドラシル』なら勝てるわ」


女は男の身体に自ら包まれに行く。男はそれを無骨に受け入れる。


「怖くは無いのか?」


「貴方がいるもの、全然怖くない」


「そうか、強いな君は」


「強くなんかない。貴方がいてくれるから私は戦える」


「それは俺も同じだ」


「そう。ならよかった。・・・・ねえアヌール。もう少しこのままで」


「あぁ、いいぞ」


「ありがとう」




(相手となる『チャイア』・・・・・あまりいい噂は聞かないな、それに比例しての情報の少なさ)


刻一刻とその時が迫る中アヌールは相手の情報収集に精を出していた。


(『USKA(ウィスカー)』の機体は瞬間移動。『アルジル』は重力操作。『EUN(ユーン)』は攻守一体のシールド。『オセアン』は自分に有利なフィールドの形成か…………ここまで来ると『インテグレーシステム』を生み出した『チャイア』の『γ-ブレイク』はどんな化物じみた性能をしてても不思議じゃないな)


(『インテグレーシステム』の重要な要素となるパイロット間の関係性…………パイロットの『シュン·チューゲン』中尉と『ミホ・タニグチ』少尉………経歴だけでは2人の接点も見えん。探りを入れたいところだが『チャイア』の警備は一筋縄ではいかない…………さてどうしたものか)


「また眉間にシワがよってますよ大尉」


そっとコーヒーを差し出すパトラ。


「ありがとう中尉」


「行き詰まっておられますね?」


「あぁ、午前の調整で『ユクドラシル』は問題ない。だが相手の情報が圧倒的に不足していてな対策を練れない」


「…………実際に遭遇した人達に聞いてみては如何ですか?」


「そんな人物いるのか!?」


「この計画が始動する前に一度事故が起きてますよね?」


「…………成る程。打開策も見出だせん今、それもありだな」


「でしたら急がば回れですわ」


「おっおい中尉」


腕を引っ張り強引に連れ出すパトラにアヌールは渋々ついて行った。



「ほらタリサ好き嫌いするな」


「だって美味しくないもん」


「それ食べるから、兄ちゃんのこれあげたんだろ?なら約束は守らないと」


「う〜ん」


「お隣いいかしら?」


「はい………パトラ中尉!?それにアヌール大尉も!?」


「今は職務ではないから、そう畏まるなダニエル少尉」


「はい・・・・・」


「それ大尉が言いますか?」


「むっ、それはだな」


「あの~小官達に何か御用でしょうか?」


「あら、どうして?」


「いえ、わざわざ雑談の為に御二人が私を尋ねることは無いのではと思いまして」


「察しがいいな。そうだ君達に尋ねたいことがある」


「大尉・・・・・言ってる側から」


「あの一件で君達は『チャイア』について情報を得てないか?」


(正直過ぎます大尉)


「あの一件ですか?」


「君達の機体がトラブルを起こした時だ」


「あの時ですか、そうですね・・・・・正直原因は今もわかっていません」


「そうか」


「しいていえば、機体同士が【共鳴】した。それが我々の見解です。」


「共鳴・・・・・・」


「はい。それもタリサ少尉の証言に基ずく推測ですが」


「タリサ少尉の・・・・・」


会話に見向きもせず、目の前の野菜とにらめっこをするタリサ。


「タリサ少尉。質問をいいかい?」


「うん!」


「『チャイア』の機体と遭遇した時、なにか起こったかい」


「?」


「黒い機体と出会った日があったろタリサ」


「うん!」


「大尉はその時のことを教えて欲しいんだって」


「えっと・・・・『シュバリエ』がね、あの子に反応したの!【会いたい、会いたいって】」


(『シュバリエ』・・・・・)


(『USKA(ウィスカー)』の『γ‐ブレイク』の名称です)


「機体が自分の意志で行動したと?」


「うん。『シュバリエ』あの子に会うまで私のお話聞いてくれなかったもん」


(『サブパイロット』の管制を外れたのか)


(そのようですね)


「他になにか得てはないか?」


「いえ、何もあの時はただお互いの機体が対峙しただけですので」


「そうか・・・・パイロットはどうだ?」


「パイロットですか・・・・・男の人にはすごく睨まれて、女の人はタリサ同様気を失っていた事しか覚えてませんね」


「そうか」


「すみません。お役に立てず」


「いや、圧倒的に情報が足りないからな『チャイア』は。僅かな情報でも助かるよ。ありがとう」


「ご馳走様でした~」


気が付けば、満足そうにタリサが手を合わせていた。


「ちゃんと食べたな、偉いぞ」


「お兄ちゃん!早く『シュバリエ』とお話ししたい」


「おっ、おいタリサ待て!すみませんアヌール大尉、パトラ中尉失礼します」


「あぁ、情報提供ありがとう」


「いえ、こらタリサ!」


タリサを追いダニエルは急いで席を発った。


「どうです?」


「わからん。ただ常に細心の注意を払うことが今出来る対策だろう」


「・・・・・不安ですか?」


「やれることをやるだけだ」


「そうですね」


「戻ろう、出来る限り情報を集めるんだ」


「了解。」


『ANU(アヌ)』の2人は時間が許す限り、情報を得る為足掻き続けた。




(ったくタリサのやつ格納庫と全然違う方向へ走っていきやがってどこ行ったんだ?)


タリサを見失ったダニエルはいつの間にか見知らぬフロアにいた。


カツカツカツ


(!?なんで咄嗟に身を隠した俺!?別にやましいことしてないだろ?)


音のする方を覗くと男が歩いて来た。


(『ショウ・ナカモト』少佐・・・・なんでこんな人の気配の無いフロアに?)


数々のセキュリティーを開放し進む『ショウ・ナカモト』少佐。セキュリティーの突破は無理だと判断したダニエルは、近くのダクトに潜り込み這いつくばって『ショウ・ナカモト』少佐を追った。


(少佐の話声が聞こえる誰かと話してる?)


光の漏れる場所まで移動するダニエル。


(えっ!?この人達って)


覗き込んだ先で見たのは、『チャイア』のパイロットと会話をする『ショウ・ナカモト』少佐だった。


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