第8話 逃れられない運命

記憶に刻まれた残酷な初日から一夜明け。各々の気持ち整理などつく暇無く、次の試験の準備が進められる。


「フルム…………」


様子を伺うようにソラは話しかける。


「何?」


「その………大丈夫?」


「当たり前じゃない。それに感傷に浸ってる場合じゃないのよ」


「そう………ね」


「それより貴女こそ大丈夫なのソラ?引きずって『リヴァイアサン』のパフォーマンス落としたら許さないから」


「うん…………大丈夫」


「ハァ〜、嘘つき。誰がどう見たって大丈夫に見える訳無いじゃない!人の心配する前にまず自分をどうにかしてよね!!」


「そうだね。ごめん」


「!?いやちょっとキツく当たった。ごめん」


「……………」


「……………」


「行こう。『リヴァイアサン』のもとに」


「フルム?」


「ここで落ち込んでたって何も変わらないし、明日が勝負の私達にそんな時間の余裕は無い。でしょ?」


「そうだね」


「明日に備えて『リヴァイアサン』を万全な状態にしよう」


「わかった。行こうフルム」


『オセアン』の格納庫に向かう2人。格納庫の前で男が2人を待っているかのように佇んでいた。


「今からか?」


「そうだよ」


「…………しっかりな」


「わかってるよ」




暗く静けさ漂う星空の元一足先に調整を終えたソラは基地内をあても無く歩いていた。


(私も明日で終わっちゃうのかな?嫌だよ、フルムと会えなくなるなんて、ローグくんともようやく再会出来たのに…………)


「お兄ちゃん〜どこ〜」


「!?」


聞き覚えのある声。声のする方へ進むと少女がいた。


「タリサ…………ちゃん?」


「あっ!お姉さんこんばんは」


「…………こんばんは」


初めて会った時に気になった少女。しかし昨日の一件がソラの表情を曇らせる。


「どうしたの?こんな時間に」


「お兄ちゃんと一緒に寝てたのに、タリサが起きたらお兄ちゃんいなくなっちゃったの」


「お兄ちゃん………ダニエル少尉だっけ?」


「うん。ソラお姉ちゃんお兄ちゃん見なかった?」


「見てないな………」


「そっか〜………ソラお姉ちゃんどうかしたの?」


「えっ!?」


「ソラお姉ちゃん。泣いてるもん」


「ヤダなタリサちゃん。お姉さんが泣いてるなんて…………あれ?」


自然と流れる無自覚の涙に動揺するソラ。


「あれれ?どうしたんだろ涙が止まらないや」


「ソラお姉ちゃん…………」


少女に対する複雑な感情がソラの感情を狂わしていた。


「ソラお姉ちゃん」


タリサは小さな身体でソラに抱きついた。


「タリサちゃん?」


「良い子良い子」


「!?…………」


膝から崩れ落ちるソラをタリサは精一杯抱き締めた。


「ありがとうタリサちゃん。もう大丈夫」


「………タリサをギュとしてくれた時のソラお姉ちゃんだ!」


「そう?なら良かった」


「どうしてソラお姉ちゃん泣いてたの?」


「…………昨日ねお姉ちゃんの大事な人がいなくなっちゃったの」


「そうなんだ。もう会えないの?」


「うん。」


「それは嫌だね」


「タリサちゃんも?」


「うん。お兄ちゃんと会えなくなるのは嫌」


「…………お姉ちゃんね。もうすぐここからいなくなるかもしれないんだ」


「なんで!?」


「明日はお姉ちゃんの番なの」


「?」


「タリサちゃんが頑張ってやり遂げた事を明日はお姉ちゃんがするの」


「!!」


「私………タリサちゃんみたいにやれるかな?」


「やれる!だってタリサが応援するもん」


「タリサちゃん…………」


「ソラお姉ちゃんは明日もタリサとお話しするの!」


「…………そうだね」


するとタリサは再びソラに抱きついた。


「約束………約束だよ!ソラお姉ちゃん」


「タリサちゃん………もっと別の形でタリサちゃんと出会いたかったな」


「ソラお姉ちゃん?」


「なんでもない。」


「タリサ?」


「お兄ちゃん!」


「なんでこんなところに?起きたのか?」


「ヒドイよお兄ちゃん。急にいなくなるなんて」


「ごめんごめん。えっとソラ少尉でしたよね?ありがとう御座います。こんな遅くにタリサの相手を」


「いえ、有意義な時間を過ごさせてもらいましたので、気にしないでください。ダニエル少尉」


「頑張ってね!ソラお姉ちゃん」


「うん。応援よろしくねタリサちゃん」


慈愛に満ちた少女は約束を果たす為に己の運命に抗う覚悟を決めた。










 

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