第7話 因縁

「XU-γB05『シュバリエ』。指定の位置に移動してください」


「了解。XU-γB05『シュバリエ』指定位置への移動を開始します」


『決闘計画(プラン・デュエル)』初日。2機が指定されたポイントに向かい移動を始める。事務的な作業の音が響く司令部。待機中のパイロット達は用意された専用のモニタールームで固唾を呑んで見守っている。


「見た限りは『USKA(ウィスカー)』側の『γ・ブレイク』にこれという特徴は無いが『アルジル』側の『γ・ブレイク』は近接兵装が多いな」


「見る限り『アルジル』側の兵装は実弾が多いようですね大尉。」


「『USKA(ウィスカー)』側は読めんな、量産機化を考慮して特殊な兵装を装備しなかったのか、或いは特殊なシステムでも内蔵しているのか………貴官はどう見る?マリナ·ユーベンバッハ大尉」


「何故私に問う?」


「あの『USKA(ウィスカー)』の少年に何か想うところがあるのかと思ってな」


「!?」


「…………」


「…………すまないな、君達が会話しているのを偶々目撃したのでな」


「…………マリナ」


「確かに情報交換は行ったが成果は無かったさ」


「……………」


「敷いて上げれば、『USKA(ウィスカー)』は旧暦でいう21世紀に覇権を握っていた国家が母体となった勢力。我々の想像の遥か上を行く性能や装備を使用している可能性はあるだろう」


「それはありえそうだな」



これより決闘計画(プラン・デュエル)による評価試験。XU-γB05『シュバリエ』VS XAL-γB02『コロッサス』を開始します。



「試験。開始」


「!?」


その場に居た誰もが目を疑った。試験開始と同時に『シュバリエ』を目視出来なくなったのだ。


「なんだ!?どういうことだ」


「機体が消えた?」


見ていた者達が驚いているのだそれを体験しているパイロットの心理的不安はそれ以上だった。


(どこだ?どこにいる?レーダーは………馬鹿なスタート位置から動いてないだと!?)


すかさず『コロッサス』は腰にマウントした拳銃を持ち発砲するが弾丸は空を切る。


「ぐぁ!なんだと」


後ろからの衝撃。いつの間にか『シュバリエ』は『コロッサス』の背後に立っていた。


「どっどういうこと?いつの間にあの機体」


「瞬間移動なのか?」


「いくら未知の元素使用してるからってそんな非現実的な事象ありえるのかよ!?」


「だが、現時点ではそれが最適な表現だろう」


すぐさま振り向き銃口を向ける『コロッサス』しかし既に『シュバリエ』はそこにはいない。


(どうしてだ、レーダーはそこにいると表示されている…………レーダーが捉えきれない速度で動いている?はたまた瞬間移動なる異次元の性能か?どっちだ?………テオ?)


『コロッサス』のディスプレイにテオからの言葉が表示される。



あれをやる。



「…………了解だ。本来は時間が欲しいがすぐに実行する。テオ!トップギアだ!!」


限られた射撃武装を地面に撃ち続ける『コロッサス』


「彼等は何をするつもりだ?」


(なんだ!?『シュバリエ』があの機体に引っ張られてる!?)


上空で姿を見せる『シュバリエ』。


「あの機体あんなところに!?」


「様子が変だ」


「何かに抵抗しているのか?」


「これは…………タリサ?」



異常な重力を観測



『シュバリエ』のディスプレイにメッセージが表示される。



「重力をコントロール出来るというのかあの機体」


(抵抗していてはその内『シュバリエ』のフレームが悲鳴を上げるけど、接近戦は装備を見る限り相手の十八番だ。どうする……………タリサ!…………そうだね。出し惜しみしてる場合じゃ無いか)


「タリサ。『シュバリエ』にお願いして」




わかった!お兄ちゃん!!




再び姿を消す『シュバリエ』。



「無駄だ。この重力場で移動など…………なに!?」


『コロッサス』のレーダーから『シュバリエ』のマーカーが消えた。


「馬鹿な!?本当に瞬間移動だとでも言うのか!?」


(そろそろテオだって限界なんだ、こんな時に完全ロストなど…………)


ディスプレイに表示されるアラート。『コロッサス』が攻撃を受ける危険性を警告する。


カチャ


『コロッサス』の後ろに『シュバリエ』の銃が突きつけられる。


「しまっ…………テオ!?」


更に磁力を増す重力。両機の鋼の肉体から悲鳴が響き渡る。


「ここへ来て更に強力に!?手元が重たい」


(あとは引き金を引くだけなのに)


「テオ!?よせ!?それ以上はお前の身体が」



心配すんな。俺は負けねえ



根気比べを続ける両者。


「グヌヌヌぬ」


「グァーーー」


(これ以上はタリサと機体が………動け俺の指)


徐々に動き出す『コロッサス』。手持ちの両剣の刃が『シュバリエ』に向けられる。


「このような性能を持っているということは、重力場対策も当然しているか」


「だとしたら動きが鈍くはありませんか?」


「本来の性能以上の力を出しているのかもしれない」


「よし!捉えた」


「マズイ!?クソソソーーー」


精一杯振り上げた両腕を後ろに下ろそうとする『コロッサス』。


「テオ!」


『シュバリエ』の動けないギリギリの重力に弱め腕を振りかざす『コロッサス』


ザシュ


「なに!?」


モニター越しに驚くパイロットの面々。胴体に光の刃が突き刺さる『コロッサス』。


寸前のところで『シュバリエ』が左腕を伸ばしていた。


「あの位置。パイロットは大丈夫なのか!?」


「ローグ!テオ!!」



試験終了。勝者XU-γB05『シュバリエ』


響き渡る終了の言葉。


「医療班及び整備班!直ちに両パイロットと機体を回収。特に『アルジル』側のパイロットを最優先だ」


『ショウ・ナカモト』少佐の焦りが基地全体に充満する。



「タリサ!タリサ!!」


急いで球体のカプセルを開けるダニエル。


「お兄ちゃん………良かった」


「馬鹿!俺の心配よりお前は大丈夫なのか?」


「『シュバリエ』が応えてくれたよ」


「そうか。よく頑張ったタリサ。ありがとう」


「エヘヘへ。お兄ちゃん苦しいよ〜」


「2人共。無事か?」


「バンズ特尉。なんとか」


(外が騒がしい…………ハッ!?)


「特尉!『アルジル』側の2人は?」


「それが…………」


「馬鹿野郎!!なんで………誰にカッコつけてやがるテオ!!」


「よう………大事なさそうだなローグ」


「何勝手に動いてやがる」


「咄嗟にお前を守るにはこれしか無かった」


捻れた両腕と両足、圧迫された身体。腹部は焼けて穴が空いた余りにも惨たらしい状態で笑顔でローグの安否に安堵するテオ。


何重にも張り巡らせた重力の壁のお陰でコックピットを貫いた光の刃は球体カプセルを貫き切れず。『メインパイロット』を守り抜いた。


「ダッセー。2人に会わす顔がねえよ」


「そんなことはない。堂々と会おう2人に」


「こんな姿を見られるのは…………嫌だね」


「テオ?テオ…………テオ!!」


張り詰めた空気と緊張感で始まった『決闘計画(プラン・デュエル)』。初日の結果はパイロット達に敗者の末路を焼き付け、胸に深く刻み込んだ。






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