第5話 その手の先に

(…………リサ、…………タリサ!どこだ?どこにいる)


(ウエェーーン〜、お父さん〜お母さん〜お兄ちゃん〜どこ〜)


(…………タリサ!)


(お兄ちゃん!!)


(今、助けてやるからな)


(うん!)


(手を伸ばすんだタリサ)


(ウーン………ウーン)


(頑張れもう少し…………あっ!!)


(ワ~ン怖いよお兄ちゃん!!)


(落ち着けタリサ!お兄ちゃんの手を掴むことだけ考えるんだ!)


(…………うん!)


(そうだ。あと少し………えっ)


(なにやってるんだ!早く逃げないと!!)


(待って!妹が!妹がそこにいるんだ!!)


(…………もう敵はすぐそこに迫ってるんだ)


(お兄ちゃん!お兄ちゃん!!)


(タリサ!タリサ!!タリサーーー!!!)


「お兄ちゃん?」


気がつくと目の前にタリサがいた。


「どうしたの?うなされてたよ?大丈夫?」


「うん………大丈夫。それよりタリサこそ大丈夫か?」


「昨日いっぱい寝たから大丈夫。」


「そっか、なら良かった」


「バンズさん呼んでるよ?」


「もうそんな時間か、タリサは先に行ってて」


「えー、お兄ちゃんと一緒に行く〜」


「わかった。一緒に行こう」



「すみません!遅れました。」


「ったく。相変わらず緊張感があるんだかないんだかわからん奴だなダニエル」


皮肉めいた声掛けでおちょくるバンズ。


「タリサはしっかり起きてたよ!お兄ちゃんが寝坊したの」


「流石タリサちゃんだ。エラいエラい」


「エヘヘへ」


「バンズ特尉。どうです?一昨日の件でなにかわかりましたか?」


「サッパリだ。お前の証言を鵜呑みにするなら『シュバリエ』と『チャイア』の『γ·ブレイク』が共鳴したってことになるが………そんな結論の報告書をどれだけの人間が信じられるかって話になるな」


「確かにそうですよね」


「『サブパイロット』であるタリサちゃんと搭乗機である『シュバリエ』の共鳴ならまだしも、『γ·ブレイク』同士の共鳴なんて前例に無いからなますますブラックボックスだよ、『γ·ブレイク』は」


「・・・・・・」


「ところでよ、俺達もついてないな」


「えっ」


「そんなトラブルに巻き込まれたばかりだってのに、計画初日の明日早速実戦じゃないか」


「そうですね」


「よりによって相手は『アルジル』・・・・・タダでは済まないだろうな」


『USKA(ウィスカー)』と『アルジル』。この2勢力は『EMNG(エミング)』誕生以前の何百という国家がお互いの利権をめぐり駆け引きや戦争をしていた旧世紀の時代に幾度となく対立を繰り返し、その遺恨が現在まで根強く残っている。


「僕らはやることをやるだけです」


「それは頼もしい。じゃあ早速最終調整に入ろうじゃないか」


「了解」



最終調整は星が輝き出す頃には終わった。まるで明日は遠足かのような笑顔で眠るタリサの子守を終えると、ダニエルはあてもなく基地を出歩いた。


ガラス張りのフロアで景色を眺める女性。鏡越しにダニエルの存在に気が付いたのか、こちらに振り向いた。


「どうしたダニエル少尉?こんな夜更けに」


「マリナ大尉・・・・・眠れないもので」


「貴官は明日が実戦であろう。しっかり休まなくてどうする」


「そうなんですよね・・・・・」


「・・・・・まあ、私も人のことは言えないがな」


「えっ」


「せっかくだ、少し情報交換でもどうだ?」


「・・・・・・」


「すまない、言い方が良くなかった。探りを入れたいわけじゃないんだ。同じ目的でここに集った者同士の人となりに興味があってな。計画の性質上そんなこと言っていられなくなったが、話せば互いに気晴らしになるかもしれないと思ってな」


「・・・・・・隣よろしいですか?」


「あぁ」


肩と肩が触れそうな距離にいながら、外を見続ける2人。


「不安か?」


「そうですね。凄く不安です」


「無理もないな、原因不明のトラブルを起こして、その原因を解明すら出来ていないのに実戦だものな」


「はい…………」


「あの娘は妹なのか?」


「はい。当時の年齢です」


「・・・・・そうか」


「火星圏で暮らしていた僕達は『火星圏撤退戦』で僕は逃げ切れたんですけど、妹含め僕以外は・・・・・」


「すまない。嫌な事を思い出させてしまった」


「大丈夫です。その事実はもう受け入れてますから」


「・・・・・・。」


「ソルト中尉と大尉はどのような御関係なのですか?」


「・・・・・戦友だ。入隊した時の同期で地球に戻るまでずっとバディだった。だが『オペレーション·カグヤ』が行われる前まで続いていた月防衛戦のとある一戦で私を庇い、逝った。」


「そうでしたか」


「貴官が気にすることはない。あやつもこの世界の明日を想い命を捧げたのだ。私に成せなかった想いを託してな」


「何故大尉はこの計画に参加されたのですか?」


「・・・・貴官と同じだ」


「!?」


「表現は違えど【根底の理由】は私も貴官も他のメンバーも恐らく同じ理由だ」


「・・・・・」


「だから相手を気に病んでしまう。同じ気持ちを抱き共感出来てしまうからな、だが情けをかけるな」


「!?」


「それはやがて自分を苦しめる。例えどのようなことがあろうと自分がこの計画に志願した【根底の理由】を貫き通せ」


「マリナ大尉・・・・・」


「それが先任士官として言える。せめてもの慰めだ」


「ありがとう御座います。大尉」


「この計画が終われば私達は自ずと『レーヴェン』という共通の敵を倒す仲間だ。状況に流されるなよ」


「はい。」


「その意気だ。・・・・・すまなかったな小話に付き合わせて」


「いえ、大尉は少しは紛らわすこと出来ましたか?」


「あぁ、お陰様でな。さあ早く休め明日に支障をきたすぞ」


「はい。失礼します大尉。・・・・・その、おやすみなさい」


「おやすみ少尉」


自室に戻るダニエル。マリナは側のソファーに腰かけると暫く上を眺めるのであった。


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