第3話 「γ・ブレイク」

「遅くなりました。バンズ特尉」


『決闘計画(プラン・デュエル)』の参加者と図らずも一通りの挨拶を終えたダニエルとタリサは、用意された『γ・ブレイク』の格納庫に赴いた。


「よう!気にすんな着任の挨拶とかだろ?」


「はい」


「南極の気候と地形に関して少し手を加えたから確認してくれ」


「はい」


「まあ、と言ってもこの『南極基地』でやるからには外部の気候や地形情報はあまり影響受けないんだけどな」


『USKA(ウィスカー)』国防宇宙軍の『γ・ブレイク』整備班に務める『バンズ・チップ』特尉は愚痴を溢すが2人は既に準備に取り掛かっていた。


「バンズ特尉なにか?」


「いや・・・・・いい気にするな」


「はぁ・・・・・」


コックピットの椅子に着座するダニエルとその後ろの球状のカプセルの中に入るタリサ。


「タリサ。閉めるぞ」


「うん!またねお兄ちゃん!!」


ダニエルが椅子から少し顔を出すとタリサは笑顔で手を振りながらカプセルの中に納められた。


「・・・・・・」


「どうしたダニエル?」


「いえ、なんでもありません」


「・・・・・これに関しては慣れてくれとしか、すまないがいえん」


「大丈夫・・・・です」



『γ・ブレイク』

元々は宇宙に進出した人類が宇宙空間での作業にパイロットスーツを着た人体では限界を露呈したことで急遽開発された10メートル級の作業支援用ロボット『ブレイク』から成る系譜の機動兵器。

CH(クリエイト·ヒストリー)071年。宇宙から突如太陽系に現れた未確認生命体『レーヴェン』は既存の人類の兵器では対処不可能で宇宙空間での人類の無力を改めて人類に知らしめた。

唯一の対抗兵器であった『核兵器』群とは別の戦闘を模索する為に『ブレイク』を『レーヴェン』種の平均サイズである20m級にサイズアップし『原子力融合炉』を主動力とすることでCH(クリエイト·ヒストリー)073年誕生したのが機動兵器『ブレイクシリーズ』の原型『α・ブレイク』。しかし『α・ブレイク』も『レーヴェン』から見れば【既存兵器】に過ぎず『レーヴェン』一体に3機編成でようやく対抗するのが限界であった。

転機が訪れたのは『EMNG(エミング)』が火星圏からの撤退を表明しCH(クリエイト·ヒストリー)75年に起きた『火星圏撤退戦』。参加した部隊が持ち帰った未知の元素『マーズバース』。人類の総既存エネルギーを1つで半年分は賄えるという強大で限られた未知の元素を『EMNG(エミング)』は即座に『α・ブレイク』に転用することを決定し、CH(クリエイト·ヒストリー)077年に後継機『β・ブレイク』が完成した。

限られた数の『マーズバース』を即時軍事転用化した『EMNG(エミング)』に激しい非難が浴びせられたが、1つの『マーズバース』で約50機の『β・ブレイク』が開発出来ることがわかると徐々にその声も鎮静化。更に長年研究しては頓挫していたビーム兵器及びレーザー兵器の実用化が『マーズバース』のおかげで可能となり、人類は『β・ブレイク』の戦績に大きく期待した。

実際に『β・ブレイク』は『レーヴェン』に1対1で対抗出来る成果を残したものの限られた『マーズバース』では量産出来る『β・ブレイク』には限界があり、物量で勝る『レーヴェン』に結局後退をしいられた『EMNG(エミング)』はCH(クリエイト·ヒストリー)080年。『オペレーション·カグヤ』を発動し、月を破壊。月を『レーヴェン』の拠点となるのを防ぎ、今や『レーヴェン』の拠点となった火星からの侵攻を防ぐという遅延戦術をとり、CH(クリエイト·ヒストリー)081年。限られた時間で『レーヴェン』に対抗しゆる新たなる力を手にする為に『決闘計画(プラン・デュエル)』が発動し現在の『『EMNG(エミング)』南極基地』に至る。

そして『決闘計画(プラン・デュエル)』にて制式採用を目指し6勢力がそれぞれ独自に開発し集結したのがこの計画の目玉である『γ・ブレイク』である。


ダニエルが懸念をしているのが『γ・ブレイク』の主動力問題であった。


『オペレーション·カグヤ』までに行われていた月防衛戦にて、一部の『β・ブレイク』が機体スペックをゆうに超える性能を発揮していることが戦績調査の段階でわかっていた。調査の結果とある国の言葉で機体とパイロットが【人馬一体】となることで想定以上の機体スペックを発揮したことが、実際にその現象を引き起こしたパイロット達の証言で関連付けされた。安定してパイロットが機体と【人馬一体】化する為に模索した結果。各勢力が導き出した答えが【機体と一体化する為のパイロット】。


まさにタリサが【機体と一体化する為のパイロット】の1人なのだ。


「ダニエル。『インテグレーシステム』起動」


「了解。『インテグレーシステム』起動」


中にタリサがいるカプセルが薄桃色に発光する。


「タリサ。どうだ?」


「大丈夫だよ。お兄ちゃん。ただいま『シュバリエ』」


「・・・・・『インテグレーシステム』正常に稼働」


「こちらでも確認した。お嬢ちゃんも・・・・問題なさそうだな。よしチェック終了全項目異常なしだ」


「了解。タリサ『シュバリエ』とバイバイして」


「えー。まだ全然『シュバリエ』とお話ししてない~」


「また明日にしよ?」


「えー・・・・・!?」


「どうした?タリサ」


「ダニエル!?」


「バンズ特尉どうしました?」


「どうしたもこうしたも『インテグレーシステム』が突然異常値を叩き出してるぞ!?」


「なんですって!?」


「お嬢ちゃんは大丈夫なのか?」


「!?タリサ、おいタリサ応答しろ!タリサ!!」


「・・・・・わたし、いかなくちゃ」


「えっ・・・・ってバンズ特尉!操作権をタリサに奪われました!?」


「なんだと!?・・・・・だめだこちらからも操作を受け付けない」


「タリサ!しっかりしろ!?タリサ!!」


ダニエルの操作を無視し『γ・ブレイク』は迷わずとある場所へと動き出した。


「総員退避!!シェルターを開けろ!?」


「特尉!そんなことしたらあの『γ・ブレイク』逃げ出しますよ!?」


「この地で行ける場所なんて限られてるし、施設壊されるよりはましだ!?あと司令部に報告しスクランブルの要請をしておけ」


「そんなことしたら・・・・・・」


「こいつはまだまだブラック・ボックスなんだ、下手したらこの基地を破壊しかねないんだ。急げ!!」


「はっ、はい!」


「ダニエル!大丈夫か!?」


「なんとか!」(普段の最大加速時の3倍の速度を出し続けている・・・・・どうしたんだ?)


「タリサ!しっかりしろ!?タリサ」


「みーつけた」


ブーンブーン


(アンノウン接近!?こんな時に)


レーダーの距離が詰まると徐々に漆黒の『γ・ブレイク』が接近してくる。


(両者減速する気配無し・・・・このままじゃ・・・・・!?)


急ブレーキで激しいGがダニエルの身体を襲う。漆黒の『γ・ブレイク』も示し合わせたかのように急停止する。


相対する2機。その2機を6機の『β・ブレイク』が取り囲む。


「止まった・・・・・タリサ!?」


急いでカプセルを開けるダニエル。


「タリサ!おいタリサ!!」


「おにい・・・・ちゃん?」


「どうしたんだ急に」


「『シュバリエ』がね、あの子に反応したの」


「あの黒い機体にか?」


「うん。あの子に【会いたい、会いたいって】」


「それで突然こんなことに・・・・・」


「お兄ちゃん。ごめんなさい」


「タリサは悪くないよ、気にしないで」


「うん・・・・」


再び漆黒の『γ・ブレイク』に目を向けると、女性パイロットを抱きかかえた男性がこちらを鋭く睨み続けていた。







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