決闘
第2話 集結
「お兄ちゃん、お兄ちゃん起きて」
己の命運をかけた片道切符の飛行機の中で、少年は妹に起こされる。
「タリサ・・・・・」
「見てみて!南極だよ!!」
嬉しそうに氷の大地を見る妹を少年は微笑ましく見守る。
「なに?お兄ちゃん?」
「いや、タリサはタリサだなって」
「どういう意味よ?」
「ご想像にお任せします」
「もう!お兄ちゃんの馬鹿!!」
「・・・・・・。」
仲睦ましい兄妹を乗せた飛行機は氷の大地に設置された滑走路に無事着陸した。
神妙な面持ちの少年を余所に妹は目を輝かせながら周囲を見渡す。
「諸君が『USKA(ウィスカー)』の代表者かね?」
1人のアジア系男性が2人を出迎えた。
少年は敬礼すると、兄を見て慌てた妹もすかさず敬礼する。
「『USKA(ウィスカー)』国防宇宙軍所属『ダニエル・レオパルド』少尉及び『タリサ・レオパルド』少尉。只今着任しました。」
「『EMNG(エミング)』宇宙軍の『ショウ・ナカモト』少佐だ。この度の『デュエル』の責任者である」
「よろしくお願いします。少佐」
「こちらこそよろしくな。・・・・・君達いくつだ?」
「・・・・・自分は15で、タリサ少尉は」
「8歳です!」
「そうか・・・・・」
「少佐?」
「いや、済まない。どうしても・・・・気がかりでな責任者でありながら」
「仕方がありませんよ、『レーヴェン』との戦いで7割近くの大人が亡くなり、今の中心は30歳台の人達。末端の人間が『未成年』と呼ばれる年齢になることは致し方ありません。」
「・・・・・」
「それに『レーヴェン』に唯一対抗出来ると言われている機動兵器『γ(ガンマ)ブレイク』に乗れるのは最高齢で22歳・・・・・必然的に徴兵対象が『未成年』になりますよ」
「そうだな・・・・・」
「そんな顔されないでください少佐。悪いのは未確認生命体『レーヴェン』です」
「まさか俺より1周り違う年下に励まされるとはな」
「すみません。生意気言いました」
「いやこちらこそ余計な気を遣わせてすまない。気を取り直して案内しようここが君達が約1か月過ごす『EMNG(エミング)南極基地』だ。」
ショウ少佐の案内で施設を見回る2人。
「お兄ちゃん!食堂!食堂だよ!!」
「タリサ。さっき機内で食べたばかりだろ?」
「うん?一通り説明は終わったからゆっくりするといい」
「ありがとう御座います。」
「なにか他に質問はあるかい?」
「自分達の格納庫に機体は搬入されてますか?」
「あぁ。君達と共にやってきた『γ(ガンマ)ブレイク』は先程説明した第1ハンガーに格納されているはずだよ」
「わかりました。」
「仕事熱心はいいことだが、もう少し肩の力を抜いてもよいぞダニエル少尉」
「お心遣い感謝します。少佐」
「ごっ、ごめんなさい」
少し離れたところでタリサの困惑した声が聞こえる。
「少佐。すみません」
急いで声のする方へ向かうダニエル。
その場に着くとタリサは誰かとぶつかっていた。
「すみません。私の連れが」
「いや、こちらこそすまない。大丈夫か?」
「あっ………はい」
タリサはぶつかった女性に見惚れている。無論ダニエルもその美貌に惹かれた。
「…………なにか?」
よく見ると右腕部には『EUN(ユーン)』の国旗が付いていた。慌てて敬礼するダニエル。
「失礼しました!自分は『USKA(ウィスカー)』国防宇宙軍所属『ダニエル・レオパルド』少尉です。部下の『タリサ・レオパルド』少尉。が失礼を致しました。」
「そうか」
まるで標本のような美しい敬礼を返す女性。
「『EUN(ユーン)』国防宇宙軍所属『マリナ·ユーベンバッハ』大尉だ。貴官らも『デュエル』の参加者か?」
「はい!」
「そうか………よろしく頼む」
「よろしくお願いします。マリナ大尉」
マリナの後から男性が1人追いかけてきた。
「おい、マリナ!待ってくれてもいいだろ?」
「遅いぞソルト!あれだけ時間厳守だと」
「飯くらい自分のペースで食わせろっての」
2人を素通りしたと思いきや切り替えして敬礼する男性。
「あっ俺、『EUN(ユーン)』国防宇宙軍所属の『ソルト·ケーニッヒ』中尉。よろしくなお二人さん」
「こちらこそよろしくお願いします。ソルト中尉………って」
ソルトはダニエルの挨拶を聞く前に姿を消していた。
「…………わぁ〜、いい匂い〜」
「おいタリサ!」
ふらふらと歩き出すタリサを再び追いかけるダニエル。目的の場所に着いたタリサはその場にいる人達の注目を集めていた。
「おい・・・・あの子もこの計画の参加者か?」
「まじかよ、幾ら何でも幼過ぎだろ」
「・・・・・・」
周囲の陰口を余所にダニエルはタリサを捕まえる。
「お兄ちゃん!これ食べたい」
「しょうがないな」
「あいつ連れかよ」
「まじか、しかも兄妹!?」
いっそう周囲が騒がしくなる。
「おい!お前」
「…………なにか御用でしょうか?中尉」
「ほう………ガキではあるが立場は弁えれるようだな」
(あの腕章は『アルジル』、厄介な勢力に絡まれたな)
「ここはお前達のような乳臭いガキが来る場所じゃないさっさと失せろ」
「御言葉ですが中尉。我々は『USKA(ウィスカー)』からこの『決闘計画』に派遣された正規の軍人であります。上下はあれど同じ任務を遂行する同僚でありますのでそのような偏った見方は改めて頂きたいと思います」
「どんな甘い言葉で誘われたかは知らないが、お前達の想像する場所じゃねーんだ失せろ」
「恐れながら、自分もそれなりの事を越えてきていると自負しております」
「…………」
「…………」
「やめろよテオ、悪いな『USKA(ウィスカー)』の少尉」
「いえこちらこそ失礼致しました。『ダニエル・レオパルド』少尉であります。こちらは『タリサ・レオパルド』少尉。」
「『アルジル』国防宇宙軍所属。『ローグ·トリスタン』中尉だ。よろしくダニエル少尉。こいつは同じく『アルジル』国防宇宙軍所属『テオ·キャニオン』中尉。まぁお互い浅からぬ因縁ある勢力通しだが仲良くやろう」
「………はい」
「どうした?」
(とは言いつつ牽制はしっかり入れてくるんだよな)
「いえ。よろしくお願いしますローグ中尉」
「おい!ローグ勝手に………」
「ほら行くぞテオ。女の子をイジメるな」
「おい離せ!!」
首の裾を引っ張りローグ達は強引にその場を離れた。
「ヒック、ヒック…………」
「タリサ?」
「ウワァーン〜怖かったよ〜お兄ちゃん〜」
人目もはばからず泣き始めたタリサにダニエルは困惑する。
「落ち着けタリサ。もう終わった」
「ウアアアン〜ウアアアン〜」
「ほらほらお嬢ちゃん落ち着いて」
タリサの後ろから1人の女性が抱擁をした。
「えっ、だ〜れ?」
「落ち着いて。怖くない、怖くないよ?」
「…………お姉さん温かい」
「フフフ。ありがとうえっと………」
「私タリサ!」
「タリサちゃんか。お姉さんはソラって言うのよろしくね?」
「うん!よろしく!!ソラお姉ちゃん」
ホッと一息撫で下ろすと後ろから肩を掴まれたダニエル。
「おい!」
女性はその勢いでダニエルの胸倉を掴む
「えっ」
「えっじゃない!お前があの子の保護者なら、お前がしっかり監督しろ!!」
ソラと瓜二つの顔の女性がダニエルを怒鳴りつける。
「ソラも止めなよね、これから訓練とはいえ戦う相手と馴れ馴れしくするの」
「もうフルムったら同じ計画に参加して後々は共通の敵を倒す仲間なんだからいいじゃないの〜」
「えっと………貴女も?」
「『オセアン』国防宇宙軍の『フルム·エアリス』中尉。あっちは『ソラ·エアリス』少尉だ」
「えっと………もしかして姉妹ですか?」
「見りゃわかんだろ!?ソラ行くよ!!」
「あっフルム待って〜、またねタリサちゃん」
「またね〜」
ソラの温かみに触れ泣き止んだタリサにダニエルは安堵した。
「全く、どいつもこいつも礼節がなってないな」
タイミングを伺っていたかのように男女が2人に近づく。
「そうは思わんかね?『ダニエル・レオパルド』少尉」
「えっと・・・・貴方方は?」
「おっと、人に礼節を説きながらこれは失礼した。私は『ANU(アヌ)』国防宇宙軍の『アヌール・ヴェン』大尉だ。こちらは『パトラ・ファラ』中尉」
「『パトラ・ファラ』中尉です。よろしくお願いします。」
「よっ、よろしくお願いします」
「うむ・・・・ところで先程まで『EUN(ユーン)』の2人もいたが」
「御二人には先程廊下で御会いしました。」
「ということはあとは『チャイア』の2人か・・・・・彼等が大衆の場に姿を見せるのは稀だから図らずも『デュエル』参加者と一通り挨拶が済んだ訳だ」
「ハハハ・・・・・そうなりますね」
「まあ、なにはともあれ約1ヶ月よろしくなダニエル少尉」
「はい!よろしくお願いします!!」
差し出されたアヌールの手を握り返すダニエル。こうして『EMNG(エミング)』起死回生の一手『決闘計画(プラン・デュエル)』は静かに幕を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます