『7』の日の契約は...

白鴉2式

第1話

180cmを越える黒のスーツ姿の彼。

せっかくの眉目秀麗の顔立ちが、今は不機嫌な表情。


荒っぽい歩き方で喫煙所に来るなり、

「クソーっ!」と、不満を露にした声を上げる。



その声は独り言ではなく、目の前に設置された、テーブルの付いた分煙機の横に立つ彼に向けてのもの。



その彼もまた、黒のスーツ姿。

長い髪に眼鏡を掛けた、線が細い体。

優男の表現がしっくりくる。


彼は大声で叫ぶその声に臆する雰囲気も無く。



「荒れているね。やっぱり契約は成立できたなかったのかい?」



彼はまるで契約できなったことを予想していたかのような口調で声を掛ける。



「そうだよ。

 たくっ…契約しかけた女がいたってのによ」



「こんな日に?そういう人、いたんだ」



「ああ。相手もその気で、あっさり契約の話までこぎつけたんだが…


 契約する最後の最後で…

 アイツが邪魔しやがった!」



「アイツ?…ああ、彼らのことだね。

 仕方ないさ、彼らもそれが役目なんだから」



「くそっ!」



ドンっ!と苛立く感情を吐き捨てるように、強く握ったこぶしでテーブルを叩く。



「女に向かって何が

 「私はあなたを助ける天使です」

 だぁ?

 いけしゃあしゃあとあのクソメスガキー!」



「あ、邪魔したのってマヤちゃんだったんだ」



彼が下品に呼ぶ女性は、

二人にとって顔馴染みの女性だった。



「しかも「しっしっ」って手で追い払う素振りなんかしやがって!

 俺は獣じゃねーって…おい、何笑ってるんだよ!」



軽く握った手を口元に当てて小さく笑う彼に怒鳴る。



「だから何がおかしーんだよ!」



「いや…君は彼女とはよっぽど縁があるんだなって」



「冗談じゃねーよ!あんなメスガキと!」



「マヤちゃんをガキ呼ばわりするのは止めてあげなよ。子供じゃないんだからさ彼女は。

 君とさほど年は変わらないはずだよ?」



「俺より年下の奴は全員ガキだよ!」



「じゃあメスだけは止めてあげたら?

 女性に失礼だよ?」



「うっせー!アイツはメスガキだ!

 クソなメスのガキのクソメスガキだ!」



怒鳴る彼に、やれやれ…と困ったような、相変わらずといったような、そんな顔を見せる。



しかし彼の彼女に対する態度はいつものとこなのだが、今回は特に怒り心頭のように伺えた。



「よっぽど腹に据えかねているようだね。今回の契約を逃したことがそんなに悔かった?」



「ああ、そうだよ。…あの女はただの女じゃねぇ。

 街中で見かけた時は身震いしたぜ。

 あの女、10年…いや、100年に一度の逸材だって、俺の身体が反応しやがった。


 だから絶対に契約成立させて、ジンクスを打ち破った日の華を添えれる筈だったのによ!」



悔しさで声が大きくなってきた彼をなだめるように話し掛ける。


「分かっていたはずだろ?

 【『7』の日 】に行動を起しても骨折り損で終わるだけだってこと。

 僕達のような者は、そういったことには特に意識して動かなきゃならないってさ?」



「それが気に食わないから!


 ジンクスを打ち破ってやろうと思って…」



「そして結局失敗に終わったと」



「ふんっ…」


言われて、痛いところを突かれたといった風に腕を組んで、目線を外す。



対して、指先で眼鏡の位置を直して、


「───『7』の日は僕達にとっては、ジンクスなんかじゃなくて、ルール、鉄則…いや縛りみたいなものだからね。

 それを打ち破ることなんて容易にできるもんじゃないよ。


縛りを忠実に守って行動を起こす。

だから僕達は、『7』に関わらない」



話を黙って聞いていた彼はテーブルに肘をつき、その手に顎を乗せると、黙り込んで、ふてくされる。



そんな子供の様にふてくされている彼に微笑みながら。


「もうすぐ【『666』の夜 】が来るし、そこで挽回したら?」



『666』の夜 ─────


それは彼らにとって契約を成立させる機会がもっとも多い日。

彼らにとって特別な、いわばラッキーナンバーのような日。



しかし、ふてくされている彼の顔に気が晴れる様子は無く、つまらなそうな顔に変わるだけだった。



「興味ねぇし、そんな日」



「『666』の夜に対して、そんな顔をするのって君ぐらいなものだよ」



「多く契約を取っても、意味がねーよ」



「そうかい?より多く人間と契約を成立させることが悪魔の本分だと思うけど?」



「数の話じゃねーよ!

 こっちから心を惑わせなくても俺達に求め訴えてくるような奴らがわんさか湧き出してくるような、そんな日なんかに、

 幾ら契約を成立させたって意味がねーよってことだよ。気持ちの問題なんだよっ」



彼の偏屈なまでのこだわり、

しかしその高い志は、彼の魅力でもあった。


しかしその不器用さに思わず吹き出す。



「お前、また笑いやがったなっ」



「ごめんごめん。

 だけど契約が多く取れる時に取っておいたほうがいいんじゃない?

 じゃないと契約数が少ないことをマヤちゃんにいじられるよ?」



「んなことにはなんねーよ。アイツが俺の契約数だとか知るよしも無いんだからよ」



「そんなことないよ?だって僕が教えるから」



「おっ!お前なぁっ!!」



「なら、僕にバラされてもいいように『666』の日ぐらいは、しっかりと契約を増やしていかないとね」



「ぐぬぬぅ…」



悔しさを全面に出した表情を見せていたが、フンっと、腕を組む。



「上位ランクに位置するほどの契約数を誇るお前には、『666』の日だとか、そんなこと関係ないんだろうがなっ」



「僕に言わせれば、こだわりをみせなければ上位クラスに並ぶほどの契約センスがあると思うよ?」



「なっ!?」



「センスは、あるんだけどねぇ~」



「お前ーっ!───── はぁ…」



大きくため息をつくと、テーブルに肘を付いたまま、大柄な身体が小さく見えるほど力なく項垂うなだれる。



「目の前にとびっきりの上玉がいたのに契約を取り逃がしてしまうだとか、

 その原因があのクソメ…女天使のせいだとか。



 【『7』の日 】に最高のラッキー7を達成させるどころか、


 とんだ最悪のアンラッキー7だぜ、まったく…」

 

 

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『7』の日の契約は... 白鴉2式 @hacua

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ