回転寿司屋にて ~ラスト・オブ・一貫~

瘴気領域@漫画化してます

お寿司食べたい

「やった! ラッキーセブンだ!」


 お昼に回転寿司に入ったら、隣の席の男子高校生がそんなことを言っていた。

 寿司屋でラッキーセブン? なんじゃそりゃ?


 よくわからんなあと思いながらコハダ→エンガワ→サーモンのマイベストコンボを決めると、サーモンの下から⑦という模様が現れた。


「なんだこれ、サーモンは100円だろ? ひょっとして間違って高い皿取っちゃった?」

「いえいえ、お客さん。⑦はラッキーセブンです。7皿分、無料で食べられるんですよ」

「なるほど、そういう仕掛けだったんだ。何円の皿までいいの?」

「金皿でも、紫皿でも大丈夫ですよ」

「マジで!?」


 えびす顔の職人さんが説明してくれたところによると、ラッキーセブンを引いたら値段にかかわらずなんでも7皿食べていいらしい。

 この店では金皿は500円、紫皿は時価のようだ。


 日替わりらしい壁の短冊をじっと見つめる。


・シマアジ……悪くない。好物だ。しかし、高級魚だとは知っていても「しょせんはアジだよなあ」という思いが脳裏をかすめる。

・北海道直送のミズダコ……これも同じだ。美味いが、しょせんはタコなのだ。

・キンメダイ……うーん、キンメはやっぱり煮付けだよなあ。

・マガレイ……あのシコシコした食感がたまらん。

・トキシラズ……え!? マジであの伝説の食材があるの!? 回遊せず、たまたま近海に残ったサケだ。銀座の一流店だってお目にかかれない代物……ううん、怪しいな。回転寿司は深海魚を別の名前で売ってたりするしなあ。

・大トロ……鉄板ではある。しかし、脂がくどいんだよなあ。個人的には中トロがちょうどいい。

・ウニ……これも鉄板だが、一度北海道で採れたてのウニを食べたら普通のウニでは満足できなくなってしまった。ウニ特有のトイレみたいな臭みが一切ないんだよな。アレを知ってしまうと、そんじょそこらのウニでは満足できなくなる。


「あの、お客さん、ラッキーセブンはどうします? 一応、ルールなんで7分以内に決めてもらわなきゃいけないんですが」

「えっ、時間制限あんの!?」

「それも含めてお遊びってことで。ああ、お任せ・・・もいけますよ」


 気付いていなかったが、カウンターにはタイマーが置かれていた。

 そこに表示されていたのは残り7秒を示す数字。

 俺は慌てて「お任せでっ!」と叫んだ。


「あいよっ! お任せで!」


 無数の寿司が流れるレーンの向こうで、職人がえびす顔で包丁を振るっている。

 微妙に手元が見えない。

 一体何を切っつけているんだろう?

 お任せ・・・なんてはじめてだから、ちょっとドキドキしてくる。


「はいっ、こちらお任せです!」

「あ、どうも……って、これなに?」


 寿司下駄に載って出てきたのは、


1)ぬちゃぬちゃと蠢く触手と、

2)瞼もないのにまばたきをする目玉と、

3)べろべろとそれを舐める舌と、

4)下半身だけで跳ねるカエルと、

5)幾何学的なフラクタルの極彩色と、

6)角度によって色が変わるつやつやと、


 とても美味しそうだった。

 でも、これではひとつ足りない。

 俺は職人さんにクレームを告げる。


「あの、1貫足りないみたいなんですけど」

「ああ、6つで十分なんですよ」


 それでは話が違う。

 納得がいかない俺は、当然食い下がる。


「俺はたった6貫じゃ満腹にはほど遠いぞ! ほら、ぜんぶ食っただろ!」


 俺はガリだけになった寿司下駄を、職人に突き返す。


「はあ、しょうがないお客さんだ。これはとっとき・・・・ですからね。この一貫でおしまいですよ」


 えびす顔の、歪んっだ、そ┓れが、差▓\した、❆聯パ7▓▓▓▓▓▒▒▒▒▒░░░


「はあ、一貫一巻の終わりって言ったのにねえ」


 ぐるぐる、ぐるぐる、寿司は回る。


(了)

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