黒い雨

@suoak1905

第1話

黒い雨が降る薄暗い街路地にひときわ人気な扉があった。ひと昔に流行っていたとされる飲み屋街と呼ばれるものの、なれの果て。

 どれの扉も錆びついて開けられるのか分からない薄気味悪い所に、その扉はまるで新品のように人々を受け入れていた。


 名前は「饅頭」飲み屋街では、そうそう見ない名だがそこにはひっきりなしに人が足を運んでいる。その店に死んだような眼をしながら入ってきた男がいた。

「夜の25時、合言葉は花散し欲を飲むだ」そう告げられた所が25時きっかりに扉を開けた。もちろん合言葉は一言一句間違ってはいない。だが扉の門番は男を弾いた。

「すまねぇお得意様がまだ遊んでいるんでな」とニヤッと笑う。その顔に男はこれでもない怒りを覚えた。


 普通なら呼んでおいて、それを拒否するのは店として客人をもてなす作法がなってない。だがそれはここが店で客がいる場合だ。ここに来るのは客ではないし、ここも店ではない。

 饅頭とは借りの名前。

「おい!無理やり入るなら容赦はしねーぞ?」再度入ろうとする男の目に映ったのは、まだ齢10もいってない少女が犯される姿であった。

 男は突き飛ばされ、門番は右手を外す。右手の義手を取り払うと、そこから出てきたのは機関銃。それも40mmの大口径の弾薬を要する重機関銃。人が撃たれれば跡形も残らない。それを時間として3秒も満たなかった。

 門番は解き飛ばされた男に対して撃ちはなったのだ。それだけではない、普通なら饅頭内にいる客や店員が何事かと慌てふためくであろう、いくら犯しているのが愛玩人形であり規則違反である少女型だとしても。

 だが店内の男たちは驚きも何もしない、一心不乱に少女型愛玩人形に腰を打ち付けている。その様子はこの饅頭の異常性と門番が持つ過剰すぎる武装の過剰さが物語っている。


「おい!掃除屋!しご……」門番の首が地面へとゴロリと落ちた身長3mもある体格から落ちた頭の音は店内にいた男たちの動きを止めた。

「何事だ!!」そう一人が叫んだとたん首が飛ぶ。また一人また一人と店内からこぼれる光はやがて赤く染まり出てきたのは死んだ目をした赤く濡れた男であった。


 その後ろをついてきたのは白髪の少女。アメジスト色をした綺麗な少女であった。

 店先にいた愛玩人形とは肌の質も何もかもが違う、誰の目から見ても、最上品の愛玩人形、人と大差変わりない。

「兄さま……」愛玩人形は死んだ目の男を兄さまと呼んだ。その姿は愛玩人形にも関わらず、そのしぐさ、所作をすべてをとってもその者の妹であることは明確であった。

 兄妹だけが出せる独特な距離感、喋るスピードまで。

「紫。待たせてごめんな。苦しくなかった?」死んだ目がようやく優しい瞳へと変わった。

「兄さまが助けてくれるって信じてたから」二人は夜闇へ消えてく、これが世界を揺るがす事件の前兆とは知らずに


 今朝は旧マザーシティにある廃街におびただしいほどの死体が転がっていることがニュースによって報道された。

 特に死体が密集していたのは違法風俗営業をしていたとされる饅頭と呼ばれる店であった。もともと旧マザーシティの廃街は犯罪の温床になっていると近くの住人の間で話題になっていた。

 違法電子ドラッグ、違法改造義手および機械人体、違法少女型愛玩人形の作成。など頭文字に違法と付くもの以外何もない旧都市だと言われていた。その違法しかない場所で犯罪行為が露見したのは初めてであった。

 それも個人がやってるニュースサイトではなく、全国共有ネット番組で報道されたことだ、それは外から圧力をかける存在が、その都市を捨てたことを意味した。

「兄さまの活躍がTVに出てるよ兄さま」旧都市マザーシティの廃ビルの中でソファに埋もれる兄さまの姿があった。全身のほとんどを違法改造した機械体の体は終始細かい電磁波を吐き出している。

 そのためかTVでは時より砂嵐が走り飛び飛びにしか情報を得られない。だがそのことを知れたということは連日のように旧都市マザーシティで行われた出来事がTVに取り上げられているということになる。


「行くか……もう体は大丈夫そうだ」それを聞いた紫は兄さまの手に乗り、肩へと移動する。そこが紫の定位置だからだ。

 外は雨が降っていた。黒い雨、この都市が捨てられる理由になったもので、同時に犯罪者が最も活発に動く時間だ。改造されてない機械体の人間はこの雨の中歩くとすぐに動けなくなる。違法改造されたとしても長時間雨に当たり続けるのは危険だ。

 雨には独特なプラトニック金属が含まれる。一度肌やものに付くと一生離れない厄介な金属。その雨の中歩くやつは揃いもそろってまともじゃない。


 その中を進む兄妹のもとに誰かが現れた。この中で傘も刺さず歩いている。体はプラトニック金属に覆われていた。

「もしやと思って近づいてみれば、懸賞金188億のカモネギじゃねぇか!兄翡翠に妹紫……くぅ!!違法改造を繰り返し最強をものにした兄に人間のころから名器として名高いあまりに違法改造され愛玩人形へとなり果てた紫。どっちも最高だ!」

 一瞬にしてプラトニック金属を振るい落とした、一度付いたら離れない厄介な金属だが、それは表の話、欲のことを改造した裏の違法改造技術ではプラトニック金属は白いTシャツに付く泥でしかない。泥が付くことがなければ何の問題もない。


「兄さま、また現れました」そう言われ兄さまは紫をそっと地面へとおろした。それを待たなかったのは飛んできた謎の男、体を180度捻らせ手に持った針を妹、紫に降りかかった。

「まずは妹からだ!体を壊したって記憶保存部位だけ残しておけば大金100億が手はいる!!」だが男の針は紫には届かなかった。男の腕は兄さまを通り過ぎた時から切り落とされていたからだ。

 男はそれに気づくと2歩飛び下がり20mあまりの距離を取り口笛を吹いた。

「おっかね」男は切られた腕をナノマシンで元通りにすると再度切りかかってきた。今度は紫ではなく、兄さまに向かって。

 鋼の飛び散る甲高い音が火花と共に駆け巡る。「名を言ってなかったな。俺様は欲(ヨク)だ。お前を殺す賞金稼ぎだ」


 紫の目にははっきりとは捉えられていないが兄さまと欲と名乗った男が切りあっているのが分かった。欲は何度腕や足を切り落とされてもナノマシンで元に戻し、逆に兄さまは私を助けた弊害で機械体を酷使し活動限界が近くなっていた。

 それにこのプラトニック金属が兄さまの動きを遅めている。欲がなぜプラトニック金属雨の中、普通の雨と大差ないように動いているのか不思議でならなかった。


 当然のことながら最初に決めてを打ったのは欲であった。欲の持つ鋭い針が兄さまの右肩を貫いたのだ。それだけならば兄さまの体内ナノマシンで治るのだがナノマシンの動きがおかしかった。

 普通ならすぐ直る針の孔程度の孔をふさがずに逆に広めていたのだ。

「へへ!最強には俺のウイルスも適用ってことか。ますます俺様の技量にウットリ」光悦な顔を浮かべ兄さまの攻撃をやめない。

「この旧都市マザーシティの機械体をすべて首を跳ねて回った最強の男もウイルスには勝てないか」右肩の穴が体半分を占めると兄さまは動きを止めた。

「じゃあお楽しみと行きますか」欲が近づいてくる。私は兄さまから離れることはできない。私は兄さまの横で押し倒される。服を脱がされ欲の肉棒が秘部へと当てられる。次には欲の上ずった気持ちの悪い声が私の耳を覆うことになる。

 だが同時に秘部の感触は一瞬にして離れることになる。兄さまが体の修復を終え、欲に斬りかかったからだ。

「なっ!?俺様のウイルスを克服した?体の穴だってナノマシンの修復力じゃ1時間はかかるぞ!!」右腕を落とされた欲が慌てふためきながら右腕をナノマシンでくっつけようとする。だが体を治すはずのナノマシンは右腕を壊し始めたのだ。

 それだけではなく、切り口を治すはずのナノマシンも欲の体を壊し始めたのだ。それだけではなく、体に付かないはずのプラトニック金属も体に付き始めた。

 欲はこの時初めて焦りを覚えていた。生まれながらにして賞金稼ぎ、死生観など当の昔に捨てていた、それなのに今は死にたくないと願ってしまう、欲は恐怖の雄たけびを上げ体を治すはずのナノマシンによって分解された。居場所を失ったナノマシンはプラトニック金属によって壊されいく、そこには何も残らない。

 黒い雨の中、兄さまは紫を抱え上げた。羽織っていたローブをかけ「大丈夫か」と言ってくれた。

「はい、兄さま。これでさらに」紫は兄さまに接吻をした。その間に私のナノマシンは兄さまの体内をめぐる。あいつから奪った情報で兄さまはさらにお強い兄さまへと変貌を遂げる。

 もう彼らの体にはプラトニック金属は滑り落ちていた。

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