相槌は返事ではなく
西野ゆう
第1話
「ふうん、そうなんだ」
私は級友の言葉にただそれだけ返す。
「ねえ、
「聞いてるよ、ちゃんと」
「ま、良いけど」
私は心ここに在らずの状態が続いている。
誰に知られることもなく、誰に教えることもなく続けてきた活動。それがようやく実を結ぼうとしていた。
核兵器禁止条約。今国会で、このままいけば批准される。
私がSNSで発信した言葉が、防衛大臣を動かした。
米国に頼らない、具体的な防御策。
誰しもが知ることとなった言葉が、まさか高校生によるものだとは誰も思っていない。防衛大臣、その人を除いては。
署名の数は、元々活動に熱心だった広島市と長崎市を中心に、今もなお増え続けている。
一億人の有権者のうち、実に十二パーセントの千二百万人の署名が集まった。自治体の直接請求に必要な署名数は、有権者の二パーセントだ。それと比較しても、かなりの数になっている。
「今日さ、ライブ配信があるんだって。なんかアーカイブは残さないっていうからさ」
「ふうん、そうなんだ」
「だからね、あたしは部屋にこもりたいんだけど、妹がねえ、受験でしょ? だから部屋ではしゃいでるとうるさいんだよね」
「ふうん。大変だね」
級友はもちろん知らない。
普段学校でみんなと一緒に馬鹿な話題にはしゃいでいた私に、こんな秘密があるなんて。条約が批准されれば、私のことも明かされる。大臣から直々にそうして欲しいと頼まれた。
最初はもちろん断ったけど、世界でも高校生の言動が大人を動かす事例が増えている。
大臣曰く、私は日本の希望らしい。私に日本を代表するつもりなんてないけど。
このころから、私にはSNSでもうひとつの顔ができた。SNSといっても、ごく狭い範囲だ。せいぜい学校とか、塾とかの繋がり。
その中で私は「アンラッキー7」と呼ばれるようになった。
最近、いつも気のない相槌で「ふうん」とばかり言っているから、「不運」と名前の「奈那」を英語にして「アンラッキー7」らしい。
正直、自分でも幸運なのか不運なのか分からない。
日本全体を見てもそうだろう。
ただ私は、自分らしく生きたいだけなのだ。
相槌は返事ではなく 西野ゆう @ukizm
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