アンラッキー7

葉山 宗次郎

第1話

「よっしゃーっ! 今日はついてるぜ!」


 先ほどの第6レースも的中させて、俺はご機嫌だった。

 某ゲームに影響されて競馬を始めてから一ヶ月、勝ち星を収めている。


「さて次は手堅くせめて行くか。一番人気のゴールドプレーンにかけるか」


 だがその瞬間、俺は肩を掴まれた。


「やめておけ」


 真剣な表情で話しかけてきたのは、俺に競馬を教えてくれた先輩だ。


「この競馬場の7がつく日の第7レースは大荒れになるんだ」


「大荒れですか」


「ああ」


 いつもおちゃらけた先輩は真剣な表情で話す。


「実力のある馬が落馬したり、故障したり、ゲートに異常が発生して開かなくなったり。とにかく荒れることで有名で順当という言葉が成立しない。特に一番人気が一着になった事は絶対にない」


「じゃあこの一番人気は」


「絶対に順当に1着にはならない。確実に二着以下、大荒れだ」


「じゃあどうすれば?」


「ない簡単だ。1番人気が確実に一着にならないのなら2番3番が1着になるということだ」


「じゃあ」


「そうだ2番3番人気を狙えばいい」


「なら2番3番の複勝か馬連で買えばいいんだ」


 複勝とは着順は問わず1着と2着の馬を当てる馬券のことで馬連は着順まで予測する。

 複勝は当てやすいの倍率は低いが馬連は難しい分、倍率が高い

 だが着順が人気の低いやつだと倍率は高い。

 複勝でも3~4倍の倍率は見込める。


「そういうことだ。おもいきり儲けさせてもらうぞ」


 早速購入することにする。

 ただ売り場に来た時、少し面白いことを思いついたので俺は実行してみることにした。


 馬券を買った直後、売場は閉めきられ、いよいよ第7レースが始まる。

 各馬がゲートに収まり、出走の時を待つ。

 が、その瞬間ことは起きた。


『ゴールドプレーンいきなり立ち上がった。あ、ゲートが開きましたゴールドプレーン出遅れました』


「私の馬券がっっっっっっっ!!!!!」


 スタンドで悲鳴が沸き起こる。隣の女性など両手で頭を抱え込んで叫んでいた。

 一番人気らしく多くのファンがゴールドプレーンに投票していたのだ。

 なのに出遅れて引き離されている。


「やはりアンラッキー7だな」


 先輩はしみじみと、知っていたかのように意味ありげにつぶやいた。


『おっとゴールドプレーン。内側から追い上げてます』


「何?」


 アナウンスに先輩は驚く。

 確かにゴールドプレーンが内側から追いかけてきている。

 これまでのレースで内側は踏み荒らされ走りにくい。

 だがゴールドプレイはそんなことは意に介さず無人の野を走るが如く、内側から押し上げていった。


『ゴールドプレーン! 抜いてきます抜いて行きます! 人気最下位のコハルビヨリを抜き去った後、2頭、3頭とさらに抜いて行きます』


「おいおいおいおいおい」


 スタンドとは対照的に先輩は気が気ではない

 一番人気のゴールドプレーンには入れてない。必ず負けると判断して組み合わせには入れていない。

 一着でゴールしたら全て外れ馬券だ。


「行くな! そこで下がれ!」


 先輩は叫ぶが、ゴールドプレーンのワープするような走りは止まらない。


『ああついに先頭集団に並んだ! そして抜いた!』


「まて行くな! こけろ!」


 スタンドの歓声と先輩の悲鳴が交差する。

 そして事件は起こった。


『ああっ! ゴールドプレーン転倒! 後続を巻き込んだ!』


「ぎゃあああっ!」


 真の悲鳴がスタンドにこだまする。

 ゴールドプレーンの転倒に先頭集団が引っかかり、後続のほぼ全ての馬が巻き込まれ転倒した。

 ゴールを駆け抜けたのは最後尾にいたため離れていたハルイチバンだった。


「ああ……」


 嘆きとも悲鳴ともつかぬ声がスタンドに満ちる。

 外した観客達が、怒りの余り、はずれ馬券を放り投げ紙吹雪のように散り落ちる。

 このレースでハズレ馬券の総額は120億を超えた。


「信じられない……」


 先輩から聞いたときは話半分に聞いていたアンラッキー7。

 だが実際に目撃すると驚きが勝る。


「本当かよ……」


 手に入れた馬券の倍率を見て俺は驚いた。


「500倍かよ」


 人気最下位のハルイチバンを単勝で買っていた。

 最下位だけに倍率が500倍だった。


「本当にすごく荒れるな。アンラッキー7」

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アンラッキー7 葉山 宗次郎 @hayamasoujirou

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