深夜の本屋 ~逆転の7~

タカナシ

第1話 逆転の7

 深夜になるとこの書店はマンガたちが具現化する不思議な大型書店です。


 あっ、ご挨拶が遅れました。私は編集者エッセイマンガの具現化、名前を著者名から取って、江津 えつ ひかりと言います。 

 元の作者に倣って、この不思議な書店をエッセイにしていきたいと思い、今日も店内を観察しています。


 おや、今日は愚痴大会のようですね。


               ※


「ラッキー7って言葉は野球からでよぉ。終盤7回は試合の潮目で逆転劇が起きやすいとかそういうところからの意味らしいぃんだがよぉ。ちっ。ふざけんじゃねぇぜ!」


 そうやって毒づくのは、野球マンガの具現化。なんともバットの似合いそうなリーゼントにユニフォーム姿の青年だった。


「うむ。確かに。ふざけておるな」

「ああ、わかる。わかる」


 それに同調するのは、、アングラマンガの白衣の壮年。そして、ホラーマンガのクマのぬいぐるみだった。


「オレなんかよぉ、この前、7回裏でぼてぼてのフライになるはずのボールが強風でホームランになった所為でライバルに負けちまったんだぜぇ。何がラッキー7だ。オレからしたらアンラッキー7だ。クソがっ!!」


「わたくしもそうさ。7話目で、白人の元傭兵にぶん殴られるし、17話目で車に轢かれたのだぞ。7がラッキーというのは嘘っぱち。むしろ不幸しか呼ばぬ」


 白衣は歳の所為もあってか、ガタが来ると言わんばかりに首もとをさする。


「俺もだ。7巻目にして、とうとう焼かれちまって第一部完だ。俺自身はすげー人気あるから続編にも出れるとは思うけど……」


 クマのぬいぐるみはすすを払うような動作を短い腕でしてみせた。


「なんで、俺たち揃いも揃って「7」って数字のときにこんな目に……」


 クマのぬいぐるみが落ち込んでいる。


 いや、キミら、主人公より人気のライバルとアングラものの主人公兼ラスボスとホラーのキラー殺人鬼じゃないか。そりゃ、逆転する「7」ってところで主人公とかにボコられるよ。

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