数百年の宿敵
「アイツから何か聞いたか?」
「道中に少しだけですけど……陰陽師は寿命っていう概念がなくて、霊力を持ってる。あと、全ての事象が、陰陽と五つの要素? で成り立つってことしか知らないです」
「無知から始めたにしては上々じゃないか」
「じゃあ、私が何に特化しているか分かるか?」
そう言って、ミツは髪を纏めるために使っていた
「火、ですか?」
「ご明察。やっぱ光る才能ってのは伸ばし甲斐があるな」
よく分かったな、とミツは手を伸ばしてわしゃわしゃとアキラの頭を搔き撫ぜる。どこか
「お前は木だな。春風の匂いがした」
「あ……それ、ハルさんにも似たようなこと言われました」
「うわ、アイツと同じこと言ったのか、屈辱」
げぇ、と心底不快そうな表情をミツは浮かべる。アキラは、どうしても気になっていたことを問うために、少し躊躇しながら口を開いた。
「あ、の。ミツさんとハルさんって、どんな関係なんですか? ハルさんは、友人だって言ってたんですけど……」
「友人? まさか、アイツは宿敵だよ、私の」
「ライバル?」
「あァ。私はこの界隈でも珍しい毛色を持っているだろ? 陰陽師としての素質は持っていたが、黒髪黒眼じゃあない。だから、気味が悪いと、妖怪みたいだと向かってくる奴らは皆私が打ちのめしていたが、アイツだけは違った」
懐かしい思い出を頭の中で蘇らせるように、ミツは遠くを見詰める。これだけ聞けば何やら良い出会いというものがありそうなのだが、それがどうしてハルとのライバル関係に繋がるのだろうか。
「アイツは、私の容姿を馬鹿にしなかったが、陰陽師としての実力そのものを未熟だと言いやがった。それも、何人もの陰陽師を打ち倒してきた私に、だぞ」
「ハルさんって、そんなに凄い人なんですか?」
「まァな。実力だけで言うならこの国で一番の実力を、アイツは持ってる。私は、その一つ下の万年二位」
「エッ」
想像していた以上にとんでもない人に教えを受けようとしているのだ、と気が付いたアキラは引き攣ったような声を出す。陰陽師としてトップレベルの人達に期待されているのだ。やるからには、きちんとした結果を出さなければいけないとアキラは心内で決意する。
「年下だってのに生意気な野郎だが、実力ばかりは誰も物を言えない。変なところで面倒臭がりだからな、素質のある奴を引っ張ってきても碌な育成しないんだよ、アイツ」
「そうなんですか?」
「自分の実力はそこらの奴らより少し上だ、なんて思ってやがんだ。だから身の丈に合わねェ様な修行をしたりもよくある。アイツはアイツで力のある奴を育てたいだけなんだろうが……まァ、ただ単に陰陽道以外のことがド下手くそってわけだ」
全く遠慮のないミツの物言いに、アキラは苦笑してなるほど、と頷く。その間式神が部屋の中をふよふよと浮いて、服の片付けであったり、お茶の追加だったりをしており、アキラは横目にちらちらと映るそれらにどうしても気を取られてしまっていた。
「そういやァ、妖怪は見えるのか?」
「……いえ、見たことないです」
首を横に振って否定する。この世に生を受けて十六年、モンスター以外の人ならざるモノをアキラは一度も見たことがない。そこの縁側で寛いでいるキュウは除外するとして、アキラは妖怪だとか、陰陽師だとかそういった普通に過ごしていては目にすることのできない存在のことをついさっき知ったばかりなのだ。そりゃあ、変死のニュースなどを耳にして、不安や恐怖を抱くことがあったとしても、その原因を解明したいとは思わなかった。何故なら、それは魔法警察や政府の仕事だからである。一介の学生であるアキラには、何ら関係ないと思っていた。
「ふゥむ、なるほどね。チャンネルがまだ合ってない訳だ」
「チャンネル?」
「九尾はあんなナリで一応大妖怪だからな。アレと数十年共に居たんなら影響を受けていない訳がない。その上、妖力もあびたんだろう? なら、もうお前の瞳には妖怪が見えるはずだ」
「霊力の活性化、みたいなものですか? 陰陽師としての性質が芽生えるのと同じように」
「そうだな、言い換えればそういうこった」
考え込むような素振りを見せてから、ミツはアキラとミツ居る部屋の一つ奥へと向かう。何をしにいったのだろうか、とミツの行動を見つめていると何やらミツが手に衣服のようなものを持って戻ってきた。
「コレ着て、外出るぞ」
「外に?」
「少し荒技だが、無理矢理チャンネルを合わせてやる」
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