泣きっ面に「7」

茂由 茂子

踏んだり蹴ったり

「ラッキー7」という言葉がある。だから「7」にはラッキーなイメージがついていて、なんとなく「7」に縁起を担ぐという人も居るだろう。私はそれを否定しない。否定はしないが、私には当てはまらないことを強く申し上げたい。私にとって「7」は「アンラッキー7」と言っても過言ではない。

 

 どういうことかと言うと現に今も……。

 

「申し訳ございません!」

 

 私は電話に耳を当てて、平身低頭よろしく頭を深々と下げていた。電話口の相手に私の姿が見えなくとも、何度も何度も頭を下げて謝った。ディスプレイに表示されている相手方の電話番号を見ると、下4桁が3777であった。

 

「それはもう、お客様のおっしゃる通りでございます。大変に申し訳ございませんでした」

 

 私が丁寧に謝っている様子を、周りの人たちは片耳で気にしながらも自分の面前にあるパソコンから目を離さない。


「とんでもございません。はい。この度は貴重なお電話をいただき誠にありがとうございました。はい。では失礼いたします」

 

 何度謝罪の言葉を口にしただろうか。電話をとってから約三十分後にようやく解放された。「はあ~」と大きな溜め息を吐きながら椅子へと腰を下ろす。

 

「お疲れ。盛大なクレームの電話だったみたいね」

 

 同期のやなぎがコーヒーの入ったマグカップを私のデスクの上に置いてくれた。淹れたてのそれは、ふわりと良い香りを漂わせる。

 

「ありがとう」

 

 カップに手をかけて口につけると、ぴりっと舌に痛みが走った。

 

「あっつ!」

「え、火傷した?」

 

 カップから口を離すと舌先がひりひりする。これは完全に火傷をした。なぜだと思ってマグカップをよく見てみると、そこには「7」という数字が入っていた。これぞアンラッキー7だ。舌を出して「ひーひー」と言っている私に、柳は慌ててペットボトルを持って来た。

 

「とりあえず水飲んで冷やしたら」

「ごめん。ありがとう」

 

 柳が持って来てくれたペットボトルの蓋を開ける。すると、中から勢いよく水が飛び出した。ぷしゅっという大きな音を立てて、それは噴水のようだ。

 

「ええっ!?」

「なんで!?」

 

 私と柳は焦る。隣の席の二期上の先輩からは「なにやってんのよ~」と呆れた声を出された。

 

「すみません。先輩はかかってないですか?」

「私は大丈夫だけど、あんたたちはびしょぬれじゃない。着替えはあるの?」

 

 柳と顔を見合わせる。二人とも着ているブラウスが水浸しだ。なぜだと思ってペットボトルの蓋をよく確認する。賞味期限が「2023.3.17」と書いてあった。また「7」かと思いつつもあまりにも近い期限だ。

 

「柳これ、どこにあったの?」

「給湯室の冷蔵庫の中だよ。備蓄用の水が賞味期限近いから誰でも飲んでいいよって置いてあったの」

 

 ということは、急な温度変化かなんかで水が飛び出したということか。はあ、最悪だ。

 

「田中は今日、踏んだり蹴ったりだね」

「あんたに言われたくないわ」

 

 水浸しの私たちは、七階にある女子更衣室へと向かった。着替えている途中に火災報知器が鳴ったのは、また別のお話である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

泣きっ面に「7」 茂由 茂子 @1222shigeko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画