第37話 ある意味ここから
「そうだよ」
「え」
「……俺が、真上太陽だよ」
くそ、バレたくなったんだけどな。
俺は妹であるいすずに、本当のことを話した。
そして、本当のことを話したのが数時間前のことだ。
「お兄ちゃん」
「……」
「一体どういうことかな?」
俺は仁王立ちするいすずの前で、土下座をしていた。
場所は家のリビング。リビングには俺といすずしか居ない。
「いすず、すまなかった」
「すまなかったって何が?」
「いや、その」
「声が小さい、もっと大きな声を出せないの?」
「は、はい! 今まで、俳優やっていたことを隠していてすみませんでした!!」
俺は何度も何度もいすずに頭を下げた。いすずはそんな俺を見て、はぁーと息を吐いた。
何故、俺がいすずに土下座をしているのか?
何故、いすずが怒っているのか?
数時間前、俺が俳優をやっていて、芸名が"真上太陽"だということがバレてしまった。いすずは俺のファンだったらしいので、かなり驚いているようだった。
「お兄ちゃん、どどどういう……」
「あのー、すみません。お話聞かせていただけませんか?」
「は、はい」
「……」
警察の事情聴取やらなんやらあってその話は保留になっていたのだが、警察署から家に帰ると先に帰っていたいすずが玄関で待っていた。
「……お兄ちゃんおかえりなさい、早速だけどリビングに来てくれてる?」
「えっ?」
「話したいことが、たーくさんあるんだ♡」
そう言いながらいすずは、俺の腕を引っ張った。しかし、いすずの力が強すぎて腕がメキメキと鳴る。
「(ひぃぃ!)」
俺はこのままいすずの要求を呑まなかったらまずいことになると思った。観念して、リビングに向かった。で、入ってそうそうに土下座をさせられたというわけだ。
「理由を話してよね。お兄ちゃん♡」
いすずは笑顔を浮かべているけど、背後からドス黒いオーラが見える。
「(ひぃ、完全に怒ってらっしゃる!?)」
いすずがかなり怒っているのが分かった。
内心いすずに怯えていたが……まぁ100パーセント俺が悪いので、覚悟を決めた。
「(いすずと暮らしている間、嘘をつき続けていたってことになるからな)」
俺は膝にのせていた拳をギュッと握り、いすずの顔を見た。
「いすず、本当にすまなかった。騙すつもりはなかったんだ。ごめん」
俺は誠心誠意謝罪をした。いすずは何も言わなかった。
だから俺はそのまま、言葉を続けた。
「俺、正直お前のことを信用できなかったんだ。いくら父さんの再婚相手の娘だからって信じられなかったんだ」
「……」
「だから父さんや鈴さんに頼んで、俺が真上太陽だってことを隠してもらったんだ」
「……どうして、お母さんには話したの?」
「それは父さんが鈴さんにプロポーズの時に話したって聞いて」
「……」
「本当にごめん! 本当はいすずと暮らして最初の頃話そうと思ったんだ! いすずが信用できる人だって分かったから。でも、話す勇気がなくてズルズルきちゃって」
「……」
俺は再び、いすずに向かって頭を下げた。
「謝って済むことじゃないって分かってる、俺を許さなくてもいい。ただ、親父たちだけは許してやってほしい。俺が2人に無理矢理頼んだから!」
頭を下げたまま、いすずの言葉を待つ。しかし、いすずはなかなか言葉を発しない。
「(はは、さすがにいすずに呆れられたかな)」
もしかすると、いすずから兄妹関係を辞めたいって言ってくるかもしれない。そしたら、いすずとの関係は切れてしまうだろう。
「(話さなかった俺が悪いんだ。自業自得だ)」
ぐっと唇を噛み締めていると、
「はぁ、もういいよ」
っといすずの声が聞こえてきた。
「呆れた、よな。こんな兄じゃ嫌だよ……」
「バカ」
「えっ?」
「お兄ちゃんは、バカ」
いすずは、ギロリと俺を睨みつけてきた。
「お兄ちゃんは、バカだよ。大バカだよ!」
「いすず?」
「私がそんなんでお兄ちゃんを嫌いになるわけないでしょ!!」
「で、でも」
「まぁ、たしかに、お兄ちゃんが黙っていたことはショックだよ? むっちゃムカついた。けど、その気持ちはまぁ分かるから。実際私も最初の頃はお兄ちゃんを信用していなかったしね。尾行だってしたし」
「?最後の方なんで言ったんだ?」
「何でもない! と、とにかくそんなんじゃ、今までの絆は切れないってこと!」
そう言うといすずは、俺に目線を合わせるようにしゃがみこんだ。そして、おもむろに手を差し出してきた。
「はい、お兄ちゃん」
「えっ」
「握手だよ、握手。仲直りの。隠していたことはこれでチャラにしよう」
「……」
「これからもよろしくってことで……って!? なに泣いてるの!?」
「いすず……お前ってやつは!」
「もう、泣かないでよ」
いすずはポケットからハンカチを取り出すと、俺の涙を拭いてくれた。優しい妹に、俺はさらに涙が止まらなかった。
「いすず、本当にごめん。もう隠し事はしないから」
「はいはい。お兄ちゃん、泣き止まないとからかっちゃうよ」
いすずに笑われながら、俺は涙を拭いた。
「いすず本当にありがとう。こんな俺を許してくれて」
「もう、そんなのいいって。それより、握手」
再び手を差し出してきたいすず。俺はいすずの手を握り返した。
「これからもよろしくね、お兄ちゃん」
「こちらこそよろしくな、いすず」
ある意味ここから俺たち"兄妹"は、始まったのだった。
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