第14話 お兄ちゃん、召し上がれ!
朝、4時に起きた。
今日はやることがたくさんあるので、早目に行動しないといけなかったのだ。
「ふわぁ、眠っ」
目を擦りながらリビングに行く。いくものように扉を開けると、誰かが立っていた。
「おはようお兄ちゃん!」
「うわ!? いすず!!」
なぜかいすずがいた。
いつもはまだ寝ている時間なのに珍しいなって思った。
「お兄ちゃん、今日は体育祭だね!」
「あぁ」
「頑張ってきてね、私応援するから!」
どうやら応援するために、起きてくれたみたいだ。
「ありがとな、いすず」
まさかこんな時間にいすずがいたのは驚いたけど……
いすずに応援されたし、頑張るしかないな。
朝から妹の声援に喜んでいると、
「実はね、お兄ちゃんにサプライズがあるんだ」
「えっサプライズ?」
「じゃじゃーん!」
いすずは台所に行くと、大きなお弁当箱を持ってきた。
嫌な予感しかしない。
「実はお兄ちゃんのためを思って、お弁当手作りしたんだー! 嬉しい? 嬉しいでしょ? 妹の手作りだよー」
「……」
「どうしたのお兄ちゃん? 嬉しくないの?」
俺の顔から、サーッと血の気が引いていく。が、バレないように無理矢理笑顔を浮かべた。
「あ、ははは。めちゃくちゃ嬉しい! あ、ありがとうな」
「ふふん、いすず様に感謝しながら食べてね」
「あ、あぁ」
俺、リレー前に倒れるかもしれない……。
「あっ朝ごはんも、たくさん作ったんだ! 召し上がれお兄ちゃん」
またまた台所に行くと、プレート皿を持ってくるいすず。
「えっとね、これが目玉焼きでウィンナー、サラダにおにぎりで」
「全部スライムでは?」
「ん? なんか言った?」
「いや、別にナンデモナイヨ?」
「そう?」
俺、体育祭前に倒れるかもしれない……。
*
いすずからお弁当を受け取り(めっちゃ禍々しいオーラを放っていた)、
「うーん、美味しい! さすが、私!」
「(食材が全部プルプルしてる。なんだこの料理スキルは!?)」
朝ごはんも、バッチリ食べた(なんとか胃に押し込んだ)。後は軽く体をほぐしたり、走り方を確認したり、準備もバッチリ。
「いってらっしゃい! お兄ちゃん」
「あぁ、いってくるな」
俺はいつものように制服に着替えると、いすずに見送られながら家を出た。
「いよいよか」
いよいよ、体育祭が始まる!
学校につくと門に体育祭と書かれたアーチが置かれていた。アーチをくぐり、自分のクラスに向かう。
「これから、第40回体育祭を開催します」
クラスで朝の会を終えたら、外にある席にいき、体育祭が始まった。
俺のエントリーした種目は、綱引きと大玉転がし、そして男女混合リレーだ。
「(えっと、予定だと……)」
前者の2つは午前中、男女混合リレーは午後に行われることとなっていた。今日の予定表を確認しながら席に座っていると、
「弘人、気合い入ってるか?」
「うわっ青!? びっくりした、いきなりどうしたんだよ」
「いや、昨日メール入れ忘れてさ。今日もいつものようにお弁当一緒に食べるでいいんだよな?」
「まぁ、毎年のことだからな」
「じゃあ、お昼になったら迎えに来るから。待っていてくれ」
「了解」
青に軽く手を振り、別れる。すると、近くに座っていた沢田くんが「チッ」と舌打ちするのが分かった。
あっ沢田くんいたんだった。まぁ、気にしないようにしよう。
俺は沢田くんのことは気にしないようにし、午前の部の綱引きや大玉転がし、そして全員参加の徒競走に参加した。
「(ぜーはー、めっめちゃくちゃ疲れた!)」
あっという間に時刻はお昼の時間になり、お腹がクゥーっとなった。
「青まだかな」
いつまで待っても青が来ない。
メール入れたけど返事ないし、何してんだろう?
探しに行こうかなっと思った矢先、周りがなにやらざわついていた。ざわつき方が、有名人にあった時の声に似ている。
「えっ何あの子。めちゃかわいくない」
「俺話してこようかな」
「お、俺も!」
なんだ、なんだ?
振り返るとそこには、可愛らしい女の子が立っていた。帽子をかぶっている女の子。長い茶髪の髪をツインテールにし、赤い眼鏡をかけている。水色のTシャツにデニムのショートパンツを履いていて、足はスラッと長く、まるでモデルさんのようだった。
かわいい子だな。
その子は誰かを探しているのか、あたりをキョロキョロと見ている。
誰かを探してるのかな? 声、かけてあげた方がいいかな?
なんて思っているとその子が俺の顔を見て、ぱあぁぁっと笑顔になった。
「お兄ちゃん! みっけ!」
「へ?」
その子は真っ直ぐ俺目がけてやって来る。
「弘人お兄ちゃん、応援しに来たよ♡」
「えっ君だれ?」
「もぅ、お兄ちゃんったら。大好きな妹の顔を忘れちゃったの? ひどいよー」
「まじで、知らない……って!?」
その子の顔を間近で見て分かった。カツラとかカラコンとか付けているから分からなかったけど、よく見ると"いすず"だったのだ。
「えっ地味男の妹!?」
「むちゃくちゃ、かわいいんだけど!」
「俺!紹介してもらおうかな」
クラスメイトたちのざわつく声が聞こえてくる。
「ど、どうしてお前が!?」
「サプライズ〜、どうお兄ちゃん驚いた?」
「いや、サプライズとかいいから! とにかくこっちに来い!」
「きゃっ! お兄ちゃん強引すぎだよ」
俺はいすずの腕を引っ張ると、校舎に向かって歩いて行った。
「あっ弘人! お待たせ……ってナンパ中?」
「なわけあるか! 青も来てくれ」
途中青を発見し、3人で屋上に向かった。
屋上に着くと、俺は青にこの子はいすずであることを伝えた。
「えっいすずちゃんなの!? まじ?」
「マジです。変装した星夜いすずです。青ちゃんお久しぶりですね!」
「久しぶり、いすずちゃん元気にしてたー!」
きゃっきゃっと楽しそうにはしゃぐ2人。だか、俺はそれどころではなかった。
(ちなみに青の前でも、猫かぶってる)
「なんで、体育祭に来てるんだよ! 仕事は? 学校はどうしたんだよ?」
「ふふ、もちろん休みましたよ。お兄ちゃんの頑張っている姿を見たかったですからねー」
「応援に来るのはいいけど、危な過ぎだろ! 星夜いすずだってバレたらどうするんだよ!?」
「あっそれは大丈夫ですよ。バッチリ変装もしているし、堂々としていればバレませんって!」
大きな胸をはり、なぜかドヤ顔をするいすず。
青は「兄妹想いだなー」とかいってるけど、絶対違う。裏があるに決まってる。
「……何を企んでるんだ、いすず?」
「べ、別になにも企んでいませんよ?」
「なんで、スマホを隠したんだ。お兄ちゃんに見せなさい」
「別にお兄ちゃんの写真なんて撮ってませんから」
「ほほう、俺の写真を撮ってどうする気だ?」
「そ、それより、お昼食べましょう! 時間が押してるんじゃないですか?」
「あっもうこんな時間か! 早くお昼食べるぞ弘人!」
結局話を流されてしまい、いすずの真の目的を知ることはできなかった。
「(きっと俺の写真を撮って、なにかに使う気だな。なにに使うかわからないけど)」
ちなみにお昼は、和やかに進んだ。
と、思うか?
「お兄ちゃんの好きな卵焼きをたくさん追加で作ってきました! たくさん食べてください!」
「「……」」
お弁当+追加の卵焼きの威力はすさまじく(ドロドロして原型がなかった)、俺のお弁当を見た青は顔を青ざめていた。
「い、いすずちゃん。今度お姉さんと料理一緒に作ろうか」
「やったー! 青ちゃんと一緒に作れるなんて嬉しいです!」
「……で、できれば、早目の予定だと嬉しいかな(じゃないと弘人が倒れてしまう)」
「それじゃあ、いただきます!」
「いただき、ます」
今日のいすずのお弁当。
味が甘酸っぱくて、モチャモチャして、何を食べているかわからなかった、まる。
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