第15話 星夜いすずは強い!
お弁当を、なんとか食べ終えた。
今日は体調悪くならなかったぞ! えらい、えらいぞ俺の体!!
自分の体を、褒め称えたくなった。
「なんですかその顔? なんで褒めてほしそうな顔してるんですか?」
「ぴゅーぴゅー、いや別に」
「(じー)」
「ぴゅ、ぴゅー」
俺は誤魔化すように口笛を吹いた。
いすずは疑いの目で俺を見てきたがなんとか誤魔化せたようで、いすずは話題を変えた。
「……そういえば、2人が出る男女混合リレーって何時からでしたっけ?」
「14時からだって」
「そうなんですね! ちゃんとお兄ちゃんと青ちゃんのの勇姿を見ますからね、頑張ってください!」
「ありがとう、いすずちゃん!」
ニカッと嬉しそうに笑う青。
いすずが言っていたように、青も急遽男女混合リレーに出ることになったらしい。(他にも女子リレーなんかにも出てる)
「じゃあ、そろそろ席に戻りますか」
「そうだな」
「私は応援席から応援していますね」
「星夜いすずってバレないようにな」
「私を誰だと思ってるんですか! 星夜いすず様ですよ!(ドヤァァア)」
「はいはい」
ということでお昼も食べ終わり、午後の部が始まった。(ちなみに、席に戻ったらいすずのことをめちゃくちゃ聞かれた)
男女混合リレーまで、あともう少しだ。
少し体をほぐすか。
「おい、地味男の日ノ出」
屈伸をしていると、ニヤニヤ笑いながら沢田くんがやってきた。
「クラスの代表選手なんだから、無様な姿は見せるなよ!」
どうやら俺にちょっかいをかけにきたらしい。
「まぁ、足の遅さは変わらないけど、それ以外は完璧に仕上げてきたから」
「なに、カッコつけてるんだよ。クラスの代表なんだから優勝しろよ!」
バカにしたように笑う沢田くんに呆れる。
「あのさ、君自分で言ったこと覚えてる?」
「あぁ?」
「君が言ったんだろ? クラス優勝は目指してないって」
「っ!」
俺は沢田くんにニコッと笑った。
「だから、自分のペースで頑張らせてもらうよ。じゃ、もうそろそろリレー始まるからいくね」
「くそっ!」
沢田くんは俺を睨みつけると、どっかに行ってしまった。
「ひ、日ノ出くん。大丈夫? なんか沢田くんと揉めてなかった?」
「大丈夫、揉めてないよ。委員長そろそろ集合場所に行こう」
「う、うん」
さぁ、自分のペースで頑張りましょうか。
*
男女混合リレーの集合場所に集まると、メンバーたちが揃っていた。
「あぁ、早く終わらないかな」
「やばい、緊張してきたんだけど」
みんな緊張しているのか、顔が青ざめてる。
大勢の前で走るって、緊張するよな。
「まぁ、優勝狙ってないんだし。自分のペースでやればいいんだよ。そう沢田君も言っていたわけだし」
俺がそういうと、少し安心したのかメンバーたちはホッとしていた。
「……」
「ん? どうしたの委員長?」
「えっと、日ノ出くんって優しいなって思ってさ」
「そ、そうかな?」
「そうだよ」
委員長はニコッと笑顔を浮かべながらそう言った。
俺は委員長にそう言われも、あまり実感が湧かなかった。
「男女混合リレーの選手たちは、定位置についてください」
「日ノ出くん、並ぼう」
「あ、あぁ」
俺たちは男女混合リレーの定位置に移動した。
俺は一番最後の列に並ぶ。
「(まぁ、気楽にやるさ)」
「弘人、よろしくな?」
「こっちこそ、よろしく」
同じくアンカーの青と話してると、1番目の選手たちが並んだ。
「いちについて、よーいどん!」
パンッとスターターピストルが鳴らされた。
1番目に走る選手たちが、走り出したのだ。
「頑張れー」
みんな必死に選手たちを応援している。
俺もクラスメイトたちを応援した。
「ねぇ、B組遅くない?」
「めっちゃ遅くてワロタ」
まぁ、俺たちクラスは明らかに遅くて笑われたりもした。
けどみんな足の速さ以外は完璧で、失敗はしなかった。
「み、みんなちゃんと、自分のペースで走れてるね」
「そうだな」
「わ、私たちも、頑張らないとだね」
「だな」
そして1番目から7番目まで走り、いよいよ俺の番になった。
「弘人、勝負だ!」
「いや、無理だから!?」
「えー」
俺は自分のペースで走った。もちろん急に足が速くなったり、青を抜かしたなんて展開はないけど……
「日ノ出お疲れさん」
「お、お疲れ様、日ノ出くん」
「みんなも、お疲れ」
同じく走ったリレーメンバーたちと絆も深まったし、それでいいかって思った。
こうして俺にとっての地獄の体育祭は、幕をとじたのだった。
* いすずside
お兄ちゃんが走っている姿を私は応援席から見守っていた。
お兄ちゃんがなんとか走り切ることができ、ホッとした。
しかし、
「あのクラス遅っ」
「笑える」
なんて言われてるのを耳にした。
私の眉間に青筋が立つのが分かった。
今すぐ言ってやりたい。
「(どれだけお兄ちゃんがこの日のために、練習してたか知らないくせに。外野がでしゃばらないでよ!)」
けど、なんとか我慢した。ここで騒ぎを起こせなかったからだ。
「っ!」
私は気分が悪くなり、その場を後にした。
誰もいないところに行きたくなったのだ。そして気がつけば、お兄ちゃんたちが通う学校の校舎裏に来ていた。
「はぁ、校舎裏まで来ちゃった。戻らないと」
なんて思っていると声が聞こえてきた。
校舎裏には、先客がいたのだ。
2人の男子高校生だった。
「(何をしてるんだろう? こんなところで?)」
様子を伺っていると、終始「日ノ出」という名字がでてきた。
どうやらお兄ちゃんのことを話しているようだった。
内容は、それはもう色んな話をしていた。色んな話をしてくれて、とてもありがたい。
「(なるほど、なるほど)」
私はすかさずスマホを取り出す。
「まじ、日ノ出ムカつくんだけど」
「なら、アイツの走ってる動画SNSで流してやろうぜ」
「それいいな!」
さらに青筋が立つのが分かる。
私は辺りを見回し、確認した。誰もいない。
……この2人以外は。
「(ならいっか)」
「おい」
「はっ? ってたしか、日ノ出の妹。な、なんだよ!」
「……」
私が現れると男子高校生の1人が声を上げた。どうやら私のことを知っているらしい。
「(妹発言したのはお兄ちゃんのクラスメイトの前、つまりこの人はお兄ちゃんのクラスメイトね)」
そして容姿からして、前にお兄ちゃんが話していた"沢田"ということがわかった。
「今お兄ちゃんの動画を流すとか聞こえたんですけど、気のせいですか?」
「はっ! 気のせいだよ、あっちにいけ」
シッシッと追い払われたが、私は持っていたスマホの画面をタップした。
「まじ、日ノ出ムカつくんだけど」
「なら、アイツの走ってる動画SNSで流してやろうぜ」
「それいいな!」
「なっ!?」
「ふふっ」
再生されるお兄ちゃんに対する罵詈雑言やSNSに流す宣言の録音。
私が音声を流すと、沢田たちの顔が真っ青になった。
「この発言……あなたたちの先生に話したらどうなるんでしょうね?」
なぜか私がニコッと笑うと、2人はカタカタと震え出した。
「兄に対する暴言やいじめ、そしてSNSに流す宣言。きっと停学ですかね」
「だ、だからなんだ……ひっ!」
私は沢田の襟元を力強く掴んだ。
「お兄ちゃんの動画を消してください、そして謝罪をしろ。すぐに!」
沢田たちは涙を流しながら、ヘロヘロと座り込むと「は、はい」と頷いた。
「ありがとうございます!」
私はお礼をいうと、その場を立ち去った。
さて、お兄ちゃんのところに戻りますか!
っとその前に……
「匿名で送信っと!」
ちゃんとお兄ちゃんたちの学校に匿名で音声を送ったし、これで安心、安心。
これでお兄ちゃんが絡まれることはないだろう。
「いすず様は強いんですよーだ! ベー」
沢田たちがいる方向に、あっかんべーをしたのだった。
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お知らせ
ここまで、読んでくださりありがとうございます!
お知らせです。
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1回目のSSは、コメントで引かれていたいすずちゃんの料理についてです!
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