雨とアメリカン
雨が降る
少し肌寒く、落ちた毛布をかけるために眼を覚ます
いつもならもう起きろと言わんばかりの陽の光が差し込む窓際が青黒く、様々な音が混じりあっていた
雨の日の仕事
これ以上に憂鬱なことなんてないとくだらないことを吐き捨てながら準備を始める
雨の日は髪が湿気でくるくるとなる
雨の日は寒くて目が覚める
雨の日はなんとなく切なくなる
雨は嫌いじゃない、とは思う。
子供の頃は好きだったことだけは覚えている、しかし大人になったら嫌いが増えた。
子供の頃は好きが増えていた、嫌いも好きに変わっていた。
大人になると嫌いが増えて、好きが嫌いに変わっていた。
子供の頃は楽しいが目に映っていた。
大人になると嫌なことが目に映っていた。
同じ景色を見ているはずなのに
感じるものが全く変わってしまう
違う人間じゃない、同じ人間なのにも関わらずこんなにも変わってしまうのだ。
急ぐのが面倒だと思い早めに家を出て会社への道を辿る。
いつもより長い道のり、薄いビジネスソックスには堪える寒さの雨
思いの外、時間が余りそうになり裏道の喫茶店に入った。暖かい空間、ゆったりとした音楽が眠気を誘う、まだ小一時間ほどあるのが罪なように瞼が落ちそうになっていた
いつもなら頼むのは濃い珈琲だが店主のおすすめがアメリカンだった、せっかくならとアメリカンをひとつ頼んだ。
昔ながらの佇まいの店内とジャズだろうか、ゆったりと流れる音楽、店内に他にも人はちらほらといるが皆それぞれの時間を堪能しているようだった
心が安らぐ、本を読む人、仕事をする人、音楽を聴く人。
本も持っていない、音楽も普段聴かないからイヤホンもない
目の前にあるのはアメリカンひとつ
湯気を立ち上げ
耳をすませば雨の音が静かに聞こえる
今はこの空間を楽しむことをしてみよう
眠気を誘うこの空間全てが心地が良かった
仕事へと向かう
休日を過ごす人々はそれぞれの道へ
濡れる革靴、湿る背広の肩
口の中に残る少し苦く、優しい香り
店を振り返るとカウンターに一つ置かれた飲み終わった珈琲カップが見送るように。
そう感じた
雨が少しだけ憂鬱ではなくなった
雨とアメリカン
煙草と花束 ましろ。 @tomoki0316
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