第8話 マンイーターとの戦い(前編)

 翌朝。

 朝早くからギルドマスターが来ていた。

 新たなセバスティアーナさんの手紙を持って。


「……予定が狂ったのう、やつらはどうやら寝ずにここまできたようだ。今日の午前中には先遣隊は到着する。二十番の修理が間に合わないな」


 ギルドマスター曰く。

 騎士団長は先に全軍を城壁の外へ配備しているとのこと。


 ルカにはその事後報告と今後についてのことを相談しに来たようだ。


 ルカは報告を聞くとそれを追認し、追加で指示を出す。


 民間人は出来るだけ外に出ないように。

 城壁に近い場所に住んでる者たちは高台にある領主の館へ避難するように。

 誘導には治安維持のため冒険者を同行させること。


 それを聞いたギルドマスターは大慌てでルカの家を飛び出していった。


「どうしますか?」


 俺はお茶を差し出す。ルカはそれを一口飲みながら、ふぅ、と溜息をついた。


「うむ、今考えている。とりあえずカイル少年はノダチを使うしかないか、……とにかく時間がない。君達は騎士団に合流して奴らの迎撃を頼む」


 俺達は準備を整えると急いで馬車に乗り城壁の入り口である門の手前まで来た。


 そこでギルドマスターに鉢合う。


「ギルドマスター。ここで何を? まさかギルドマスターも戦闘に参加するのですか?」

 ギルドマスターは冒険者を引退して20年以上は経っている。身体だって鍛えてないし、申し訳ないけど足手まといに思う。

「いや、それは遠慮しとくよ。避難誘導の指示は全て完了したし、ロートルのやることはもう何もなくてな。それなら今後の為にもこの戦いは見ておこうと思ってな」


「なるほど、出来るだけ問題点を洗い出すということですね。それは立派なことです」


 ギルドマスターと俺達は城壁に上ると。外には200名の兵士が隊列を組んでいるのが見えた。

 騎士団と冒険者の混成部隊だ。

 最前列には盾を構えた重装備の騎士が前線を固め、後列は長い槍を持った軽装の戦士、その後ろに弓兵や魔法使いといった感じの布陣だ。


 シャルロットは視界強化の魔法を唱えると地平線の彼方を見る。

「来た! マンイーターの集団、数は、そうね連絡があった通り100匹はいるって感じかしら」


 隣にいた騎士団長が戦闘開始の合図とともに掛け声を上げる。



 敵の集団と最前線の騎士たちがぶつかる。


 戦況は五分五分といったところだ。

 それに、マンイーターの動きが鈍い。

 夜通し走って疲労がたまっているのだろう。

 普段の軽快な動きはなく密集して牽制を繰り返していた。


 対する騎士団も密集隊形をとって盾の隙間から槍を突き刺しながら、冷静に敵に対処している。

 だが、それは今だけだ。


 魔獣は体力の回復が速い、このまま時間が経つと戦況は一変するだろう。

 だから俺達にとっては今が最大の勝機だ。


「シャルロット敵集団で最も強そうなのはどいつだ?」


「えっと、そうね、……いた、一回り大きな個体。多分あいつがリーダーね。その周囲の奴らもリーダーよりは小さいけどそれなりの体格のやつが数匹いるわ。まずい、それに対峙してる騎士団が押されているわ。このままだと防衛線が崩れるわよ」


 俺にも見えた。身体もそうだが、牙や爪、手足も他と比べてかなり違う。


「よし、俺達はあいつを倒す。じゃあ、ギルドマスターまた後で」


 俺達は城壁を降りると駆け足で最前線に向かった。

 後ろからシャルロットがついてくる。

 シャルロットも足は速い。

 魔法使いの欠点である体力の無さを補うために毎日トレーニングをしているからだ。


「シャルロット、敵の真ん中にどでかいのを頼む」


「おっけー、じゃあ私の最高の魔法をお見舞いするわ」


「おい、味方を巻き込むなよ」


「大丈夫、レーヴァテイン家は軍人の家系よ、こういう状況で最適な魔法があるのよ」


 シャルロットは足を止めると、一呼吸し、空に向けて両手をあげる。

 自身を中心に何重もの魔法陣が展開される。

 魔法陣には複雑な文字やら記号が浮かびあがり、それは大きくなりながら上に向かって立体に伸びていく。


「いくわよ、極大火炎魔法、最終戦争、序章第一幕、『流星群』!」


 シャルロットは空に向けて、魔法を放つ。

 その瞬間に空に巨大な魔法陣が出現する。赤い文字で空に描かれたそれは単純に恐ろしかった。

 もっとも彼女からは何回か聞いていたが、それでも今回初めて見たのだ。

 驚くのはしょうがない、これが極大魔法というものなのか。


 敵集団の中央に、拳よりも一回り大きな、無数の燃え盛る岩石が空から飛来する。

 それはまさしく流星群だった。

 着弾地点には小規模な爆発が連続で起こり、ババババ、という、花火のような音がした。


 何が起こったのか、マンイーターも、騎士団も一瞬その爆音のせいで動きが止まった。


 よし、シャルロットの攻撃で、戦場の空気が変った。


 ここで俺は皆を鼓舞する。


「皆! 聞こえるか! 俺はカレンとドイルの子、カイル・ラングレン! 

 これより俺達冒険者チーム、ラングレン兄妹は戦場に参加する。

 俺達が奴等に切り込むから腕に自身がある者は続け!」


 騎士団から歓声の声があがる。両親には感謝しかない。

 俺は22歳の若造なのに、親の名前を言っただけで、ついてきてくれるのだ。


 いける。


 俺はヘイストの魔法を掛ける、最初から全力だ。

 先程のシャルロットの魔法で30匹は倒せただろうか、なら俺も30匹倒す。


 そうすれば敵の戦力は半分以下になる、そうすれば俺が役に立たなくなっても騎士団で対処できるだろう。


 まずは、先頭の一番デカい奴、あいつがリーダーだろう。

 俺は奴めがけて全力で突進し、そのまま鞘からノダチを勢いよく抜く。

 鞘から滑りだした刀身はそのままの勢いで敵に向かい、爆音で状況を把握していなかったリーダーは、なんの抵抗もなく刃を受け入れ首を落とした。

 抜刀術という技だ。

 セバスティアーナさんが教えてくれたこの魔剣の正しい使い方らしい。


 リーダーが一瞬で殺され、統制が取れなくなったマンイーター達、後はいつも通りの乱戦だ。

 これなら何も問題ない。

 無秩序なモンスターがただ、たくさんいるだけだ。

 俺はノダチを水平に構え、次にデカい敵に向かって突進する。

 全体重を乗せたノダチによる突き技で、心臓を貫かれた敵は絶命した。


 魔力が切れるまでヘイストを繰り返し、ひたすら大きな個体を狙い倒した。

 さすがに30匹は無理だったが、大きな個体を10匹ほど倒すと。

 敵はリーダー格をほとんど失ったため、有象無象の集団になっていた。

 それに比べて騎士団の士気は最高潮だ、ばらばらに動くマンイーターを各個撃破し戦闘は俺達の圧勝だった。


「やったな」

「ええ、やったわ」


 俺達がいつも通りにハイタッチすると、それを見た騎士団長が勝どきを上げた。

 他の騎士団員もそれに続き、戦場は兵士たちの勝利の歓声に埋め尽くされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る