第9話 マンイーターとの戦い(中編)
へとへとに疲れた俺達は一晩ぐっすりと眠ると、翌朝にルカが起こしに来た。
珍しい、こんなに朝早くにルカが、ってそうか、また徹夜したのだろう。
俺は既に着替え終えており、ルカを出迎えた。
シャルロットは昨日魔力を使い過ぎたのだろうか、奥にある寝室でまだ眠っている。
「さてと、朝っぱらからすまないが、状況は結構マズいことになっている」
「まさか魔剣が直らないとかですか?」
「いや、二十番はさっき、完璧に仕上げた。まっさらな状態に戻ったのだ。つまり、魔力がすっからかんという事。
これから魔剣に魔力を補給しなければならないが、対象となる魔物がいない。
それにな、どうやら連中の本隊は今日ここに到着するらしいと、セバスちゃんから極秘で連絡があった。
やつらは完徹しているようじゃ。余程のことがあって寝ずにこちらに逃げているそうだ。
昨日の奴らのこともあるし、ある程度は予測しとったが……一週間を三日に短縮するとはのう、さすがの吾輩でも想定外じゃ。
しかも奴らイカれておる、疲れ果ててその場に倒れた仲間を無視するほどに、魔物とはいえ常軌を逸している行為じゃろう。
……それにのう、昨晩は騎士団と街の皆で宴会があったろう。吾輩が許可した故、それはしょうがないが、……つまり、こっからは我々の仕事じゃ」
「あの、ルカ様、それはルカ様の秘密兵器で残りの敵を一網打尽にするという約束ですよね」
「うむ、そうじゃ……」
「で、その秘密兵器は?」
「うむ、ここにある、魔力が空っぽの二十番の魔剣、機械魔剣『ベヒモス』がな。
はっはっは、吾輩はたった二日でこれを最高な状態に修復しておいた。ほれ、これの所有者は、カイル・ラングレン。お主じゃろ?」
「ですが。たしか、魔力をフルチャージして、それで敵を一網打尽にするんでしたよね?」
「そうじゃ、だが、肝心の魔力は空っぽで。残念だが、吾輩にはもう魔力はない。正直、今すぐ寝たい、だが、あと数時間後に敵の本隊はくる」
「って、マズいじゃないですか。団長さんに速く知らせないと」
「あほ、既にしてある。だが、何も問題ないからお主らは住民が暴走しないようにと、治安維持にのみ努めよと命令しておいたわ」
「それって、マズいんじゃないですか?」
「マズい、だから吾輩はこんなに早口でお主にまくしたてておる。
よいか、この魔剣に魔力をチャージするには、所有者本人か製作者が魔力を直接ぶち込むか、あるいは魔物を斬ることで吸収するかの二通りだが、お主も吾輩も、魔力がないし魔物もいない――」
「――ふぇぇ、朝早くからルカ様のハイテンションな声が聞こえるなんて。どうしたんですか?」
奥の部屋からシャルロットが寝間着姿で出てきた。起きるのが遅いと思ったが昨日極大魔法を使ったのだった。
余程疲れたのだろう、彼女は夕食をとったあと直ぐにベッドに入り、10時間以上はぐっすり眠った、だからか髪の毛は爆発していた。
まあ、それはいつものことだが、でも、すっかりリラックスしていて俺は安心した。
「じゃから、……おお! そうじゃった、その手があった! 我々にはまだお嬢ちゃんがいた。よし、これで勝てる。連中はあと2時間で城壁に到着するぞ。出発だ、お嬢ちゃん、寝起きですまんが、とにかく出発だ! 好きな缶詰は?」
「え? 缶詰だったら桃が好きです」
「あいわかった。着替えと朝食は馬車でするといい。さあ、いくぞ、説明は馬車に乗った後、よし、カイル少年、二十番を馬車に積み込め、直ぐに城壁までいくぞ」
何が何だかわからないといった感じでシャルロットは馬車に乗せられた。
道中、ルカはシャルロットに状況を説明する。
シャルロットは寝間着のまま馬車に乗ったので、さっそく着替えを始める。
いきなり脱ぎだすとか、ほんと少しは他人の目を気にしてほしいものだ。
俺は慌てて馬車の外に顔を向け、流れる景色を見ながら考えた。
俺にもっと魔力があれば魔剣開放ができるはずなのに。
二十番の魔剣『ベヒモス』の魔剣開放の威力はすさまじい。
初めて使ったときの衝撃が未だに頭をよぎる。
たしかに、あれなら敵を一網打尽にできる。でも俺には魔法使いの才能はない……。
「さてと、カイル少年、こっちを向いてよいぞ。二人とも食べながらでいいから、これからの作戦を聞くのじゃ」
シャルロットは既に缶詰の蓋を開け中身の桃を食べている。
「――ということで、敵を倒すのに二十番の魔剣開放は必須じゃ。だが問題はカイル少年は魔法使いとしては未熟で、単独での魔剣開放は出来ぬ。
さてさて、そこでじゃが、お嬢ちゃん。君の魔力を少年に供給するのじゃ」
魔力の供給、確か魔法学院で習った記憶がある。
失った魔力はある方法で他者から供給できるという、だが、その方法は難しい。
俺は学院で習ったことを思い出していた。
魔力の供給には精神的な繋がりが重要だという。
だから見ず知らずの他人では不可能。
双子のように最初から精神的なつながりを持っていない限りは家族であっても訓練が必要だという。
兄妹を名乗っているが、俺とシャルロットは血のつながりはないし、ましてや出会ってから4年と少しだけだ。
それまでは別の家庭で育った。
しかし、ひとつだけ方法があるとルカは言った。
「つまりじゃ、諸君らも知ってのとおり、魔力とは体内を循環する自然の力。
それは皮膚より外に漏れることはない。そうでなければあっという間に魔力枯渇で干からびてしまう。
ある特殊な魔法使いは自分の血で魔法陣を書き、より強力な魔法を発動させる触媒にするそうだ」
「血を? 待ってください。いくら何でもシャルロットを傷つけるのは……」
「まあまあ、話は最後まで聞くもんじゃ。
血を使うのは吾輩も考えたが、それは少し大げさで術者の負担が大きい。
ようはあれじゃ、魔力は体の内側をめぐるもの、つまり簡単に言えば体液の交換をすればよいのじゃ。
もちろんそれだけでは無理で魔力の流れを精密に操作する必要があるがのう、それは吾輩に任せよ」
体液の交換? 思わずシャルロットを見る。
彼女も俺を見る。彼女の顔はみるみる真っ赤になっていった。
「ええ? 待ってよ、それって、つまりそういうことしろってこと? 冗談じゃないわ白昼堂々とだなんて」
「なんじゃ、おぬしらキスもまだじゃったのか。四年も二人で過ごしたのじゃろう? キスくらいする普通にするじゃろがい、……それとも、その先を想像してしまったかのう?」
「え? …………。 はっ! いえいえ、そうね、キスよ、それくらいできるわよ」
そして馬車は目的地である城壁に到着した。
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