第5話 家事手伝い

 ということで、俺達はセバスティアーナさんが留守の間に、住み込みでこの家の家事手伝いをすることになった。


 セバスティアーナさんは二週間ほどの休暇をとっていたようだった。

 ということは本当にこの人は寝室で眠らないのだな。

 何日前から休暇を取っているのかはわからないが、あの寝室は綺麗なままだった。


「はあ、分かりました、大変ですね。ところでセバスティアーナさんはどちらに?」


「ああ、セバスちゃんは確か、師匠の元にかえって情報交換といったところかのう。

 ちなみにセバスちゃんはただのメイドじゃないぞ。ニンジャーといったかな、モガミ流という凄腕の暗殺集団に所属しているのだ」


「そうなんですね。ってそんな重要なことをペラペラ喋って良かったんですか?」


「うん? もちろん闇の組織の情報はバレたらマズいぞ? お前達、うっかり外に漏らすなよ? ふぁああ、じゃあ、吾輩は寝る、夕方起こしに来てくれたまえよ」


 そういうと、ルカは事務所にあったソファに横になるとあっという間に寝息を立てていた」


 近くにあったブランケットをルカに掛けると俺達は地下室からでた。


 ベッドルームこそ綺麗だったが……。

 キッチンは悲惨だった。

 使用済みの鍋や食器が山済みである。


 魔剣をくれた恩義もあるし、それに帰った後のセバスティアーナさんの負担を減らすためにも。やるか。


「よし、シャルロット、まずはキッチンの掃除からだ。この山済みの食器を片付けよう。

 これは放っておくと虫が湧く恐れがある。最優先事項だ」

「え? 虫、……そうね、わかったわ。最優先事項ね」


 シャルロットは虫が苦手だった。まあ虫とは無縁の貴族様の生まれだ。

 野宿の時は蚊帳をかかせなかったし、その辺は貴族の女の子らしい。


 そんなこんなで俺達はルカの家に住み込みで家事の手伝いをすることになったのだが。


 これといって忙しいということはなかった。


 洗濯機や掃除機といった魔法機械がこの家には揃っている。


 お湯なんかも、わざわざ火を起こさなくても蛇口をひねると出てくる。

 さすがは機械魔法技師の家だ。


 なら、なぜこんなにキッチンが汚れているのかというと、ルカはそれでもいちいち食器洗浄機に食器を入れるのがめんどくさいのでそのままだというのだ。


 どこまでも、ずぼらな人だと呆れかえったが。

 天才とは例外なく変人なのだとシャルロットは言い切った。


 ということで、家事などしたことがなかった俺達でも、夕方までに仕事を終えることができた。


 そろそろ夕食の準備だが、さすがに料理はできない。


 作り置きの料理は既に食べてしまって無いとのこと。

 ルカはこれから何を食べるつもりだったのだろう。


 棚には様々な缶詰が置いてあった。

 まさかセバスティアーナさんが戻るまで、あれで凌ぐつもりじゃないだろうな。


 俺が無数にある缶詰を見ているとシャルロットが洗濯を終えて戻ってきた。

 さすがに女性の服を男が扱うのはどうかと思ったからだ。


「カイル、お腹空いたわね、なんか食べ物とかないかしら。あら、缶詰があるじゃない。適当に温めていただきましょうか」


 他人の家でその態度、前から思ってたが、シャルロットもそうとう変人のようだ。

 なるほど、天才は例外なく変人ね。


「なによ、その目は、言っとくけどルカ様からは許可はもらってるから。適当にある物食べていいって」


「いや、さすがにそれはなぁ。そうだ、せっかくだから三人で外食しようじゃないか。ルカ様だって、引きこもってばかりじゃ身体に悪いだろうし」


「ふぁぁああ、良く寝た、良く寝た」


 ルカは地下室から間の抜けた声を出しながら、ぼさぼさになっていた髪の毛を手で整えながら地下室から出てきた。


「ルカ様丁度よかった、今から街に行って食事でもどうですか? 缶詰しか残ってないようですし、それに俺達二人とも料理は苦手で」


「なんじゃー、お嬢ちゃん。まだろくに料理もできんのかー。

 平民として嫁に嫁ぐとなると料理の一つも覚えておかないと大変だぞー? そんなことでは吾輩のようにずっとお一人様じゃぞー?」


「う、うるさいわね。すぐに覚えるわよ。それに女だからって料理とか、そんなのは封建的よ」


「ふふふ、シャルロットちゃんよ、一端の口をきくじゃないか。でも覚えておくと良い。そのセリフはな、一通り出来る人間のみに許されたセリフなんじゃ。

 出来ない人間がいくら言っても、ぷぷ、実に滑稽に見えるぞ?」


 言い返せないシャルロット。


「よいよい、もし貰い手が無ければ、孤独な独身女性仲間として迎えてあげよう。

 ま、君はそうはならんだろうがな、だろ? 少年よ」


 ルカは俺をちらっとみるとニヤリと笑いを浮かべながら、クローゼットから外出用のコートを取り出していた。


「まあ、とはいえ久しぶりに外出も悪くないのう。お前ら行きつけの店があったじゃろう。そこに行くとしようかのう」


 いつもの普段着は白いシャツに黒いズボンで、パッとしない身なりだったがコートを着ると別人に思えた。

 ルカの黒いコートは華美な装飾はなく、機能のみを追求したデザインであったが、ルカのような大人の女性が着ると不思議と様になる。

 というか、かなり高貴な人に見える。


 元辺境伯だということと、人生経験が違うのだろう。

 本当にこの人何歳なんだろう。口には出さないが素直に気になったのだ。

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